医療的ケアとは
「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」により、平成 24 年4 月から、介護福祉士、及び一定の研修を受けた介護職員等において喀痰吸引、経管栄養が認め
られるようになりました。
医行為は「医師の医学的判断および技術をもってすることでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼすおそれのある行為」とされ、医師は医師法第17条、看護師は保健師助産師看護師法第5条で、医行為を業(仕事)として行ってもよいと規定されています。
わが国では、医療費削減等の観点から、「病院は治療をするところ」という位置づけがなされており、治療行為期間が終わると退院する傾向にありますが、退院し、医療職が常にいる環境でない在宅で生活する中でも、医療的ケアの必要な場面は時を選ばず訪れます。
また、高齢者や、脳梗塞後の後遺症による嚥下障害、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの障害・難病をかかえる医療的ケアが必要な人が増え、医行為を仕事としてできる人材を増やしていく必要も出てきました。
そうした中、2002(平成14)年に「介護者が日常生活の場で吸引することを認めてほしい」との声が上がり、2003(平成15)年より、厚生労働省は運用上の取り扱いで当面のやむを得ない措置として、家族、医療職以外にも喀痰吸引や経管栄養を実施することを順次、容認しました。
しかし、これは法的には認められていない状態での医療的ケアの実施であり、実質的違法性阻却論という考え方により認められていたにすぎません。
そのため、介護職も法に基づいて医療的ケアが行えるようにと、2011(平成23)年、社会福祉士及び介護福祉士法が改正されました。「喀痰吸引その他のその者が日常生活を営むのに必要な行為であって、医師の指示のもとに行われるもの」という文章が追加され、介護福祉士を含む介護職も、喀痰吸引と経管栄養を仕事として行えるようになりました。
出典 公益社団法人日本介護福祉士会 (令和 3 年 12 月 15 日)
介護職員が行うことのできる具体的な項目
1たんの吸引
・口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部2 経管栄養
・胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養、経鼻経管栄養喀痰吸引とは、器具を使用して痰や唾液の排出を行うこと。気道を確保し、肺炎などの感染症を予防する効果があります。
経管栄養は、自力で食事ができない人の胃や腸にチューブを挿入して、栄養剤を注入すること。胃に栄養を注入することを「胃ろう」、腸に栄養を注入することを「腸ろう」、鼻から栄養を注入することを「経鼻経管栄養」といいます。
医療と介護の連携体制が整っている、本人・家族の同意を得ているという条件つきで実施が可能です。
出典
厚生労働省「介護職員等によるたん吸引等の実施のための制度について」(2020年2月26日)
介護士ができない医療行為
ここでは、介護士がしてはいけない医療行為をご紹介します。介護福祉士の資格があっても実施できないのでご注意ください。
インスリン注射
インスリン注射は、糖尿病の治療法の1つ。医療行為にあたるため、利用者さん本人や看護師、医師でなければ行えません。また、介護士は血糖測定を行うことも禁止されています。
ただし、利用者さまがインスリン注射を忘れないように声かけしたり、見守りを行ったりすることは、介護士でも可能です。インスリン注射にあたって介護士がサポートできる内容をまとめました。
- インスリン注射を促す声かけ
- 血糖値測定器と試験紙の準備
- 測定器に試験紙をセットする
- 測定器の針を腹部に刺すように声かけする
- 測定結果を利用者さんと一緒に確認する
- 投与すべきインスリンの量を利用者さんと一緒に確認する
- 注射器を利用者さんに手渡す
- 注射器を刺すように声かけをする
- 使用済みの注射器を片付ける
出典
厚生労働省「グレーゾーン解消制度・新事業特例制度(介護職員によるインスリン自己注射サポート)」(2020年2月26日)
摘便
摘便は、自力での排泄が難しい人の直腸に指を差し入れ、便を排出させること。腸壁を傷つけるリスクがあり、介護士が行うことはできません。
床ずれ(褥瘡)の処置
寝たきりの高齢者には床ずれが発生することがありますが、介護士は床ずれの治療を行うことはできません。これらの医療行為が必要な場合は、看護師や医師を呼んで代わりに行ってもらう必要があります。