喀痰吸引等研修を介護事業者が実施するメリットや重要性を解説
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要約:
喀痰吸引等研修は、介護職員が患者の気道管理を学ぶためのもので、特に呼吸器障害を持つ患者や高齢者のケアに重要です。研修を受けることで、介護施設の入居率向上、看取り対応、2025年問題への人手不足対策に貢献し、介護職員のスキルアップにも繋がります。また、介護保険からの加算、助成金、補助金の活用が可能で、介護報酬改定による賃金アップにより離職防止にも効果的です。介護事業者は研修を積極的に取り入れるべきです。
参考:
参考:厚生労働省: 喀痰吸引等研修:
参考:介護職員処遇改善加算:
参考:厚生労働省「喀痰吸引等研修カリキュラム概要 」
参考:厚生労働省 社保審 介護保険部会「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進(参考資料)」
喀痰吸引等研修とは
喀痰吸引等研修とは、医療や介護の現場で必須とされる、患者さんの気道管理を効果的に行うための技術を学ぶ研修です。 研修すると以下のことが実施できます。 ・痰が詰まり、自分では出せない患者へ職員が痰吸引を行う ・口から食事を取ることができない患者へ職員が経管栄養を行う 詳しい研修の内容は喀痰吸引等研修 をご覧ください。 看護師や介護士が研修を受けることで、呼吸器に障害を持つ患者や高齢者が抱える喀痰問題に対処し、快適で安全な生活を支援できるようになります。 特に、風邪やインフルエンザ、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの患者にとって大切です。喀痰の適切な管理は呼吸の改善、感染症のリスク低減、生活の質の向上に直結します。
喀痰吸引等研修の目的3つ
喀痰吸引等研修の目的として3つ紹介します。 入居率向上や退所者を減らす 看取り、慢性期高齢者の対応が可能となる 2025年問題への対応として人手不足対策となる 看護師だけでなく、介護士が研修することで、介護事業でもできることが増えます。その結果、入居率向上や、看取りの対応が可能です。 以下に1つずつ見ていきましょう。
入居率や退所者を減らす
喀痰吸引等研修を行うことで、介護事業所への入居率向上や退所者を減らす目的があります。 慢性期の医療と介護のニーズをあわせもつ高齢者が増加しています。そのため、入居者のご家族が医療的ケア(喀痰吸引)の可否を気にされるご家族様が増えている現状です。 医師や看護師しか対応ができなかった喀痰吸引等を、介護事業所に勤めている職員ができることで、病院だけでなく、介護施設の利用を検討するご家族がさらに増加します。 入居率は施設経営にとって最大の課題であるため、研修を取り入れ実施できる介護職員を増やすことで、入居率、退所者を減らすことにつながります。 また、入所している患者へ喀痰吸引等が行えるため、転所せずに済み、ご家族または患者への負担を減らすことも可能です。 これから喀痰吸引等を必要とする高齢者へ実施できる施設になることが重要でしょう。介護職員のスキルをアピールすることにより、他社との差別化をはかり入居率向上に貢献できます。
看取り、慢性期高齢者の対応が可能となる
医療ケアの可否だけでなく、看取りを重要視するご家族様も増えています。介護施設で食事や排せつの介護をし、最期を迎えるまで行うケアを求めている現状です。 これまで、介護施設では急変した患者は救急車を呼び、病院へ搬送することが主流でした。しかし、喀痰吸引等研修を行い、実施できる介護士がいれば、その場で対応可能です。そして、患者本人の希望に沿って看取りケアを行えるでしょう。 ご家族または患者にとって介護施設で看取りを行ってくれるのは、負担軽減につながるため、今後増えていくと考えられます。 また、慢性期高齢者といって、病状は安定しているが、長期的な治療が必要な状態の方が多くいます。 慢性期高齢者を介護施設で対応するためには、医療と介護をリンクさせることです。介護職員が喀痰吸引等研修を受け、専門的なケアを実現し、利用者の尊厳を守るサービス提供を実践することにつながります。 よって、介護施設で実施できるように、職員を研修することで、看取り、慢性期高齢者の対応が可能となり、必要とされる施設になるでしょう。
2025年問題への対応として人手不足対策となる
2023年の65歳以上人口は、3,624万人となり、75歳以上の後期高齢者が1,936万人となっています。 参考:令和4年版高齢社会白書|内閣府 2025年には団塊世代が全て75歳以上となり、後期高齢者が2,200万人を超えると予想されています。 引用:高齢者の人口|統計局ホームページ 高齢化が進み、たん吸引が必要な後期高齢者の急増が予測されるため、医療的ケアが必要な「要介護者」に対応できる介護士が不足することが起こります。 厚生労働省が発表したデータによると、2025年度には約243万人の介護職員が必要となる予想です。 引用:第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について|厚生労働省 在宅介護の必要性も増すことから、吸引ができる介護士の需要が増えると見込まれます。介護事業者は、資格取得支援制度の強化をすることで、人材不足への対策ができます。 資格取得の費用だけでなく、講座日程に合わせてシフトを調整するなど、資格取得をしやすい環境を整備することも大切です。喀痰吸引等研修を取り入れることで、介護職員のスキルアップに貢献でき、人材不足への対策ができるでしょう。 2025年には高齢者の5人に1人が何かしらの疾患を担った後期高齢者となり、要介護者が増える予想です。「医療的ケアの資格を有している介護人材の不足」は2025年問題において深刻な問題のため、介護事業者の研修実施が鍵となります。
介護事業者が喀痰吸引等研修を実施するメリット3つ
介護事業者が喀痰吸引等研修を実施するメリットとして3つあげます。 介護保険から事業所へ喀痰吸引等加算がある 助成金や補助金が活用できる 介護報酬改定による報酬アップで離職防止につながる 研修を取り入れたいが、費用が気になる、実施するメリットがなにかと考えたことがあるのではないでしょうか。以下に解説します。
1.介護保険から事業所へ喀痰吸引等支援体制加算がある
喀痰吸引等研修を実施するメリットとして、介護保険から事業所へ加算があります。介護事業所において、喀痰吸引が必要な利用者に対して実施した場合に算定できる加算です。 喀痰吸引等研修を受講した介護職員は、「喀痰吸引等加算」の算定対象となります。 対象とされる事業者は5つあります。 居宅介護 重度訪問介護 同行援護 行動援護 重度障害者等包括支援事業 そして、取得可能な各種「加算」は以下の通りです。 夜勤職員配置加算 日常生活継続支援加算 入居継続支援加算 看取り介護加算 このように、喀痰吸引等研修を行うことで、加算があるため、事業所の収益改善が見込めます。
2.助成金や補助金が活用できる
喀痰吸引等研修を実施するメリットとして、助成金や補助金が活用できることです。 人材開発支援助成金や各自治体独自の補助金がもらえます。費用が気になる、職員への賃金支払いが不安という事業者は活用を検討してください。
人材開発支援助成金
人事開発支援助成金とは、職員の人材育成や、スキルアップするために使えるものです。 事業所が喀痰吸引等研修など、専門的な知識やスキルを習得させるために、職業訓練などを行った際の経費や訓練期間中の賃金の一部を国から助成されます。 一般の訓練より高い助成率、助成額となっているため、活用して費用を抑えることができます。詳しい助成金の活用については、費用について(助成金活用)をご覧ください。 プレゼンス・メディカルでは、助成金シミュレーションや相談は何度でも無料で行っております。気軽にお問い合わせ下さい。
自治体独自の補助金
喀痰吸引等研修の促進として、独自に研修費用など助成する取り組みが各自治体で行われています。 たとえば、港区では、令和6年度「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための研修(第3号研修)」【基本研修】受講料助成です。 助成額は、東京都で登録された喀痰吸引等研修機関が実施する基本研修の受講料(必須のテキスト代、実習費及び消費税を含む)の全額(ただし、上限22,000円)としています。 参考:港区ホームページ 実施していない自治体や、予算の関係上、受付が終了しているところもあります。各都道府県のホームページを随時確認してください。 このように、各自治体で補助金を出し、介護事業の促進やスキルアップに力を入れています。ぜひ活用して喀痰吸引等研修を取り入れてみてはいかがでしょうか。
3.介護報酬改定による報酬アップで離職防止につながる
2024年度に介護報酬改定があります。現在の「副詞・介護職員処遇改善加算」、「福祉・介護職員等特別処遇改善加算」、「福祉・介護職員等ベースアップ当支援加算」が一本化され、「福祉・介護処遇改善加算」が令和6年6月からスタートされます。 加算率の変更は以下の図です。 引用:厚生労働省事業者向けリーフレット 加算率の引き上げにより、福祉・介護職員の人材確保を推し進められます。また、介護職員の賃金をアップさせられるため、離職率を減らしたり、スキルアップするための研修等に役立てられたりできます。
喀痰吸引等を介護施設で実施するために必要なこと
喀痰吸引等を介護施設で実施するために必要なこととして、2つあります。 介護事業所が登録特定行為事業者または登録喀痰吸引等事業者の登録 喀痰吸引等研修を受ける 職員へ研修を受けさせるだけでは、喀痰吸引等を実施することができないため、注意が必要です。 以下に解説します。
介護事業所が登録特定行為事業者または登録喀痰吸引等事業者の登録
介護福祉士や介護職員が喀痰吸引等を実施するためには、介護事業所が「登録特定行為事業者」または「登録喀痰吸引等事業者」として登録する必要があります。 登録喀痰吸引等事業者では、介護職員に喀痰吸引等を行わせる事業者で、登録喀痰吸引等事業者は、介護福祉士に行わせる事業者です。 介護福祉士と介護職員両方に実施させたい事業者は、両方の登録が必要となります。 介護職員が研修を受け終わっていたとしても、就業先である介護事業所が登録されていなければ、吸引を実施してはいけません。
喀痰吸引等研修を受ける
介護事業所で実施するためには、介護福祉士または介護職員に、登録研修機関において喀痰吸引等研修を受けさせる必要があります。 研修は基本研修(講義・演習)と実地研修の2つあります。詳しくは資格取得までの流れをご覧ください。 研修を終えて、登録研修機関から「喀痰吸引等研修修了証書」を発行します。発行された修了証書を認定証交付申請書類に添付し、都道府県への認定を受けることで、実施することが可能です。 喀痰吸引等を実施するには、介護事業所が事業者登録していて、職員が研修を終えている必要があります。
喀痰吸引の登録事業者数の状況
厚生労働省の令和5年度都道府県等喀痰吸引等実施状況によると、登録特定行為事業者数は 令和5年4月1日時点で31,633件です。 内訳は以下の通りです。 老人福祉法・介護保険法関係の施設・事業所 21,047件 障害者自立支援法・児童福祉法(障害児)関係の施設・事業所 10,171件 生活保護法関係の 施設・事業所 6件 その他 409件 参考:登録特定行為事業者数集計|厚生労働省 介護福祉士が実施できる登録喀痰吸引等事業者数は2,731件となっています。 厚生労働省は令和3(2021)年10月1日現在で活動中の施設・事業所、職種別従事者数などについて集計した「令和3年 介護サービス施設・事業所調査の概況」を公表しました。 施設、事業者数は介護保険施設から地域密着型サービス事業所など合わせて30万9547件が登録されています。 参考:令和3年介護サービス施設・事業所調査の概況|厚生労働省 喀痰吸引の登録事業者数はわずか3万4000件のため、喀痰吸引等を実施する事業所が充足しているとは言えない状況です。
介護施設に喀痰吸引等研修が必要である理由
介護施設に喀痰吸引等研修が必要である理由として、医療的ケアのニーズが高まっているためです。 喀痰トラブルは高齢者ではよくあることで、対応できないときは利用者の命に関わる問題につながります。介護職員が喀痰吸引ができない場合、病院の救急外来へ搬送することとなります。夜間の人手不足のときに喀痰トラブルが起これば、施設経営に支障をきたす可能性があるでしょう。 また、利用者が窒息など起こした際に対応ができないため、大きな事故になる可能性が出てきます。介護事業者にとって、喀痰吸引ができる職員は重要な存在であると言えるでしょう。 今後、高齢者が増えることで、介護施設の入居率も高くなります。喀痰トラブルや窒息に対応するために、喀痰吸引等研修を利用し、対応できるように体制を組むことが重要です。
介護職員が喀痰吸引等研修を修了するメリット4つ
介護職員が喀痰吸引等研修を修了するメリットとして、4つ挙げます。 利用者の安全かつ適切なケアができるようになる 患者の安全性と快適性が向上する 緊急時の対応能力が向上する 介護職員としてのスキルアップにつながる 1つひとつ見ていきます。
利用者の安全かつ適切なケアができるようになる
介護職員が喀痰吸引等研修を行い、実施できるようになれば、利用者の安全かつ適切なケアができるようになります。 たとえば、苦しそうにしている利用者を看護師が到着するまで待たせることなく、吸引を行えるため、適切なケアができます。 研修では、実際に使用される機材や人体模型を使用した演習があるため、実践的な技術が身に付きます。研修を修了するまでには、知識と技術が身につくため、安全に現場で処置が行えるのがメリットです。
患者の安全性と快適性が向上する
喀痰吸引は、呼吸困難を経験している患者にとって、直接的な快適性の向上につながります。正しい技術で喀痰を除去することで、呼吸が楽になり、酸素の取り込みがしやすくなるしょう。 長い時間、痰が溜まっていると、咳が続いて疲労や不眠の原因となることがあります。肺に空気が入らなくなることで、肺の酸素化機能が低下する可能性も少なくありません。 処置をすることで、患者はより快適に過ごすことができ、生活の質が大幅に向上するメリットがあります。
緊急時の対応能力が向上する
研修を修了することで、緊急時の対応能力が向上するメリットがあります。 緊急事態では、迅速かつ正確な喀痰吸引が患者の命を救います。研修を受けていなければ、できることが限られます。しかし、研修を受けることで、痰吸引などスキルが身に付き、対応できることが増えるため、実際の業務で戸惑わずにケアを行えます。研修を受けた介護職員は、緊急時に冷静かつ効果的に対応できるようになるでしょう。
介護職員としてのスキルアップにつながる
喀痰吸引等研修を修了することで、介護職員として担当できる仕事の幅が増えてスキルアップにつながります。 喀痰吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部) 経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻) また、筋ジストロフィーや重症の心身障害を患っている療養患者など、特定の人に実施することも可能です。 介護職員は、湿布の貼付や服薬介助、座薬の挿入など「医療行為には該当しない」業務は対応できました。しかし、研修を修了することで、喀痰吸引等の医療行為が行えるようになるため、スキルアップにつながります。介護職員として必要とされる人材に成長することができるでしょう。
喀痰吸引等研修はプレゼンス・メディカルへ
この記事では、喀痰吸引等研修を介護事業者が実施するメリットや重要性を解説しました。高齢化が進み、病院だけではなく、介護施設でも医療行為が求められる時代となりました。 喀痰吸引等研修の目的は、介護施設の入居率や退所者を減らしたり、看取りや慢性期高齢者への対応ができることが挙げられます。 介護事業者が喀痰吸引等研修を実施するメリットとして、介護報酬による加算や国からの助成金、自治体独自の補助金の活用ができることです。 費用を抑えられることで、事業所の金銭的な負担を減らせられます。また、介護職員への賃金アップにもつながるため、離職率を低下させることにもつながるでしょう。 喀痰吸引等を行える事業所がまだまだ少なく、今後ますます喀痰吸引等ができる介護職員が増えると見込まれます。対応できる介護職員を増やすために、事業者は積極的に研修を取り入れる必要があるでしょう。 プレゼンス・メディカルでは、現場に寄り添った年会計画を策定しています。座学ではオンラインで受講可能で、資格取得後のフォローアップにも力を入れています。 介護職員への喀痰吸引等研修を考えている事業者は、こちらからお問い合わせください。