訪問介護の基本報酬とは?2024年の改定についても詳しく解説
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要約:
訪問介護の基本報酬が2024年4月1日から引き下げられると聞いたけれど、介護事業者として経営にどのような影響があるのかよくわからず困っている人はいませんか?
この記事では、訪問介護の基本報酬が改定される理由からその影響まで詳しく解説します。
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訪問介護の基本報酬とは?
訪問介護の基本報酬とは、介護事業者が利用者に対して訪問介護サービスを提供した際に、その対価として介護事業者に支払われるサービス費用(介護報酬)のうち、加算や減算をしない基本部分のことを指します。
介護報酬は以下の式で計算することができます。
・サービスごとに設定した単位数×1単位の単価=事業者に支払われるサービス費
式の中の「サービス」とは訪問介護、訪問リハビリテーションといった介護保険サービスの種類を指し、種類別に介護報酬が「単位」という数値で決められています。
一方1単位の単価はサービス別、地域別に次のように定められています。
|
1級地 |
2級地 |
3級地 |
4級地 |
5級地 |
6級地 |
7級地 |
その他 |
上乗せ割合 |
20% |
16% |
15% |
12% |
10% |
6% |
3% |
0% |
①人件費割合70%のサービス |
11.40円 |
11.12円 |
11.05円 |
10.84円 |
10.70円 |
10.42円 |
10.21円 |
10円 |
②人件費割合50%のサービス |
11.10円 |
10.88円 |
10.83円 |
10.66円 |
10.55円 |
10.33円 |
10.17円 |
10円 |
⓷人件費割合45%のサービス |
10.90円 |
10.72円 |
10.68円 |
10.54円 |
10.45円 |
10.27円 |
10.14円 |
10円 |
上記の表における人件費割合によって分類されている介護サービスの種類は次の通りです。
分類 |
介護サービスの種類 |
1. 人件費割合70%のサービス |
l 訪問介護 l 訪問入浴介護 l 訪問看護 l 居宅介護支援 l 定期巡回、随時対応型訪問介護看護 l 夜間対応型訪問介護 |
2. 人件費割合50%のサービス |
l 訪問リハビリテーション l 通所リハビリテーション l 認知症対応型通所介護 l 小規模多機能型居宅介護 l 看護小規模多機能型居宅介護 l 短期入所生活介護 |
3. 人件費割合45%のサービス |
l 通所介護 l 短期入所療養介護 l 特定施設入居者生活介護 l 認知症対応型共同生活介護 l 介護老人福祉施設 l 介護老人保健施設 l 介護療養型医療施設 l 介護医療院 l 地域密着型特定施設入居者生活介護 l 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 l 地域密着型通所介護 |
1級地~その他までの分類を「地域区分」と呼びますが、介護報酬が改定されると分類が変更される場合があるので厚生労働省のホームページで最新情報を確認するのが望ましいでしょう。
例えば2024年5月現在東京都23区で訪問介護の中の生活援助サービスを45分以上受けた場合、基本報酬として設定された単位数は220単位で、1単位の単価は東京都23区の地域区分である1級地では11.40円となるので、介護事業者に支払われるサービス費用は2,508円になるということです。
訪問介護の基本報酬について理解するには、まずは上記のような介護報酬の仕組みを知ることが大切です。
訪問介護の基本報酬における2024年の改定内容
2024年に厚生労働省老健局が発表した「令和6年度介護報酬における改定事項について」には、訪問介護の基本報酬について次のような単位数の改定内容が示されています。
サービスの種類 |
時間 |
現行の単位数 |
改定後の単位数 |
身体介護 |
20分未満 |
167単位 |
163単位 |
20分以上30分未満 |
250単位 |
244単位 |
|
30分以上1時間未満 |
396単位 |
387単位 |
|
1時間以上1時間30分未満 |
579単位 |
567単位 |
|
以降30分を増すごとに算定 |
84単位 |
82単位 |
|
生活援助 |
20分以上45分未満 |
183単位 |
179単位 |
45分以上 |
225単位 |
220単位 |
|
身体介護に引き続き生活援助を行った場合 |
67単位 |
65単位 |
|
通院等乗降介助 |
― |
99単位 |
97単位 |
全ての項目において、現行の単位数より改定後の単位数が少なくなっているため、訪問介護の基本報酬が減額されるとわかります。
例えば東京都23区で訪問介護の中の生活援助サービスを45分以上受けた場合で試算してみると、以下のような違いがあります。
現行 |
改定後 |
225単位×11.40=2,565円 |
220単位×11.40=2,508円 |
訪問介護の基本報酬の改定により、報酬が57円引き下げられているため、介護事業者の運営はさらに厳しくなることが予想されます。
参考:厚生労働省老健局「令和6年度介護報酬における改定事項について」
訪問介護の基本報酬が引き下げられた背景
訪問介護の基本報酬が引き下げられてしまった背景にはどのようなことがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
訪問介護を経営する介護事業所の経営状態が良いため
2023年に厚生労働省が発表した「介護事業経営実態調査」では、各介護保険サービスにおける収支差率を調査しました。
収支差率とは介護事業者の売上に対する利益率を示す数値で、以下の公式で計算することができます。
収支差率=(介護サービスの収入額―介護サービスの支出額)/介護サービスの収入額
収支差率の数値が大きいほど介護事業者の利益率が高いため、経営状態も良いと言えるでしょう。
2022年決算時の主な介護保険サービスにおける収支差率は以下の通りです。
サービスの種類 |
収支差率 |
介護老人福祉施設 |
-1.0% |
介護老人保健施設 |
-1.1% |
訪問介護 |
7.8% |
通所介護 |
1.5% |
短期入所生活介護 |
2.6% |
介護保険サービスの中で比較すると訪問介護の収支差率は高い数値となり、経営状態が良いと判断できるため、基本報酬の引き下げにつながったのです。
介護職員等処遇改善加算の加算率が他のサービスより大きいため
国は介護職員の人材不足への対策の1つとして処遇改善に力を入れており、2024年度の介護報酬改定においては2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップに確実につながるよう加算率の引き上げを行うこととしています。
具体的には、現行の「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」を4段階の「介護職員処遇改善加算」に一本化します。
主な介護保険サービスにおける段階別の加算率は以下の通りです。
|
Ⅰ |
Ⅱ |
Ⅲ |
Ⅳ |
介護老人福祉施設 |
14.0% |
13.6% |
11.3% |
9.0% |
介護老人保健施設 |
7.5% |
7.1% |
5.4% |
4.4% |
訪問介護 |
24.5% |
22.4% |
18.2% |
14.5% |
通所介護 |
9.2% |
9.0% |
8.0% |
6.4% |
短期入所生活介護 |
14.0% |
13.6% |
11.3% |
9.0% |
訪問介護の加算率は他の介護保険サービスと比較しても高水準になるため、その分基本報酬を減額することとしたのです。
参考:厚生労働省老健局「令和6年度介護報酬における改定事項について」
介護職員以外の処遇改善も行うため
2024年に厚生労働省老健局が発表した「令和6年度介護報酬における改定事項について」には、介護保険サービス全体の基本報酬の見直しの概要について記載されています。
資料内の「令和6年度介護報酬改定に関する『大臣折衝事項』」の部分には、介護職員以外の処遇改善を実現できる水準として+0.61%を措置するとあるので、基本報酬の改定理由の1つとして介護職員以外の処遇改善があるとわかります。
参考:厚生労働省老健局「令和6年度介護報酬における改定事項について」
訪問介護の基本報酬引き下げによる影響
訪問介護の基本報酬が引き下げられることによって、介護の現場にはどのような影響があるのでしょうか。
3つご紹介します。
訪問介護事業者の倒産がさらに増加する
2023年12月に株式会社東京商工リサーチでは、2023年の訪問介護事業者の倒産がこれまで最多だった2019年の58件を超え、12月15日までに60件に達したことを発表しました
株式会社東京商工リサーチでは、倒産が増加をした背景を以下の3つと説明しています。
- 訪問介護員不足と物価高、競争が重なったこと
- 介護報酬は公定価格のため物価高騰分の価格転嫁が難しい
- 大手や異業種参入との競争が激化している
一方訪問介護事業者の倒産原因を調べた所、次のような結果が出ました。
倒産の原因 |
割合 |
販売不振 |
80% |
放漫経営 |
1.67% |
過小資本 |
6.67% |
他社倒産の余波 |
3.33% |
既往のシワ寄せ |
1.67% |
その他 |
6.67% |
販売不振により介護報酬が少ない状況の訪問介護事業者に対し基本報酬を減額すれば、それが追い打ちとなってさらに倒産件数が増加する可能性が高まるでしょう。
参考:東京商工リサーチ「2023年の『訪問介護事業者』倒産が60件に急増 ヘルパー不足や物価高、競合で過去最多を更新」
人手不足が加速する
2022年に公益財団法人介護労働安定センターが発表した「令和4年度介護労働実態調査」において、従業員の過不足状況についてたずねた所、次のような結果が出ました。
|
大いに不足 |
不足 |
やや不足 |
適当 |
過剰 |
訪問介護員 |
27.9% |
31.0% |
24.6% |
16.3% |
0.2% |
全体 |
9.2% |
22.5% |
34.6% |
33.3% |
0.5% |
全体では「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答した介護職員が合計66.3%だったのに対し、訪問介護員では合計83.5%と、17.2%も差があるのが現状だったのです。
一方職種別に従業員数に占める65才以上の労働者の比率を調べた所、次のような結果でした。
職種 |
割合 |
訪問介護員 |
26.3% |
サービス提供責任者 |
10.8% |
介護職員 |
11.0% |
看護職員 |
14.2% |
生活相談員 |
4.9% |
PT・OT・ST等 |
1.8% |
介護支援専門員 |
12.3% |
訪問介護員は他の職種と比較すると唯一65才以上の労働者の占める割合が20%台で、圧倒的に多い結果だったのです。
これらのことから訪問介護の基本報酬が引き下げられれば、人手不足がさらに加速し現場の高齢化も進むのが予想されます。
参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和4年度介護労働実態調査について」
介護難民が増加する
介護難民とは、必要な介護サービスを受けられない状態の高齢者や障がい者のことです。
2015年に日本創成会議の首都圏問題検討分科会は、「東京圏高齢化危機回避戦略」という提言の中で、2025年には介護が必要にもかかわらず介護施設に入居できない数の人は以下のようになると試算しました。
地域 |
介護施設に入居できない人の数 |
全国 |
469,751人 |
埼玉県 |
26,100人 |
千葉県 |
35,308人 |
東京都 |
62,731人 |
神奈川県 |
31,758人 |
全国で介護施設に入居できない人の数のうち、1都3県に住む人の割合は33.1%を占めることになります。
介護施設に入居できない人は在宅で過ごすことになり、それを支えるのが訪問介護となります。
しかし訪問介護の基本報酬が減額されて介護職員の数が減ってしまうと、利用者が必要な訪問介護サービスを提供することはできなくなり、介護難民となった利用者を家族で介護しなければならない状態となるでしょう。
全国的に介護難民は発生しますが、その数がより多くなると予想されるのが首都圏だということです。
参考:日本創成会議「日本創成会議・首都圏問題検討分科会 提言 『東京圏高齢化危機回避戦略』記者会見」
訪問介護における基本報酬の減額への対応策とは?
訪問介護の基本報酬引き下げに対し、介護事業者ができる対策にはどのようなことがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
介護保険外サービスの提供を行う
介護保険外サービスとは利用者のQOL(生活の質)の向上を目的とし、介護保険を利用せずに行われるサービスを指します。
介護保険外サービスの特徴は以下の通りです。
- 介護保険を利用しないため要介護認定を受けずに利用できる
- 利用料金は全額利用者が負担する
- 介護事業者がサービスの内容や利用方法、費用を自由に設定できる
介護保険外サービスは国が金額を定めた介護報酬が収入になるのではなく、介護事業者が単価を自由に定めた利用料金が収入となるため、訪問介護の基本報酬のように介護報酬の改定によって単価が変化するということはありません。
介護保険外サービスには次のようなサービスがあります。
- 配食・宅配サービス
- ペットケアサービス
- カルチャースクールサービス
- スポーツ・レクリエーションサービス
- 訪問美容サービス
介護保険サービスはADL(日常生活動作)の改善やサポートを目的していますが、介護保険外サービスは利用者がその人らしい日常生活を送るためのサービスなのがわかります。
介護保険サービス以外にも全額利用者負担で行う介護保険外サービスを提供することで、介護事業者の収入の柱は増え、経営状態の改善に役立つでしょう。
人事制度を整える
訪問介護の基本報酬引き下げに対応し人手不足を解消するには、人事制度を整え訪問介護員がどのような成果を挙げれば評価につながり昇給するのかを明確化するのもよいでしょう。
前の項目でご紹介した4段階の「介護職員処遇改善加算」では、資格や勤続年数等に応じた昇給の仕組みの整備をすることや、総合的な職場環境改善による定着促進を図ることで加算率がアップするため、人事制度を整えると職員の処遇改善ができるのです。
もし人事制度を作るにあたって訪問介護員に対する評価軸がうまく定められない場合、厚生労働省の「職業能力評価基準」を参考にするのがおすすめです。
職業能力評価基準とは仕事をするために必要な知識、技術、技能に加えて成果につながる職務行動例を業種・職種・職務別に整理したもので、企業で期待される責任、役割の範囲と難易度に合わせてレベル1~レベル4までの能力段階を設定しています。
訪問介護サービス用の職業能力シートもレベル1~レベル4までホームページに掲載されているため、これらに目を通すと人事評価制度でどのようなことを評価すればよいのかがわかりやすくなるでしょう。
参考:厚生労働省老健局「令和6年度介護報酬における改定事項について」
人材育成に力を入れる
訪問介護の基本報酬引き下げに対応し人手不足を解消するには、人材育成に力を入れるのもおすすめです。
「介護職員処遇改善加算」では、経験や技能のある介護職員を一定数以上配置している介護事業者に対する加算率がアップします。
具体的には、訪問介護では介護福祉士が30%以上いれば加算率が良くなるのです。
日頃から研修などで資格取得に対する意識の向上を図ったり、求職者がどのような資格を持っているかに着目して採用活動をしたりすることが大切です。
参考:厚生労働省老健局「令和6年度介護報酬における改定事項について」
株式会社プレゼンス・メディカルは喀痰吸引等研修で訪問介護員のスキルアップをサポートしています
株式会社プレゼンス・メディカルでは、喀痰吸引等研修で訪問介護員のスキルアップをサポートしています。
喀痰吸引等研修を受講し、たんの吸引と経管栄養を業務として行うことができる訪問介護員が増えれば受け入れられる利用者の幅が広がるため、訪問介護の基本報酬引き下げにも対応しやすくなるでしょう。
また喀痰吸引等研修には人材開発育成助成金が適用されるため、研修を計画に沿って実施すれば研修にかかる経費や研修期間中の賃金の一部が助成されます。
喀痰吸引等研修についてもう少し詳しく知りたい方は、次のページもごらんください。
喀痰吸引等研修 | 株式会社プレゼンス・メディカル (presence-m.com)
まとめ
訪問介護の基本報酬とは、介護事業者が利用者に対して訪問介護サービスを提供した際に、その対価として介護事業者に支払われるサービス費用(介護報酬)のうち、加算や減算をしない基本部分のことです。
2024年の介護報酬改定において減額されるため、この記事も参考にして少しずつ対応策を考えてみてください。
本記事は発表当時のデータに基づき、一般的な意見を提供しております。経営上の具体的な決断は、各々の状況に合わせて深く思案することが求められます。したがって、専門家と話し合いながら適切な決定を下すことを強く推奨します。この記事を基に行った判断により、直接的または間接的な損害が発生した場合でも、我々はその責任を負いかねます。