医療的ケア児を保育園へ受け入れるための体制や喀痰吸引等について
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:要約:
医療的ケア児を保育園へ受け入れるためには、喀痰吸引ができる職員や保育士が必要です。保育園の設備や、地域との連携など、医療ケア児を受け入れるためにやるべきことが多くあります。この記事では、医療ケア児の保育園受け入れの現状や、実際に医療ケア児を保育している施設の事例を解説します。医療ケア児が保育園へ受け入れられるように、保育士への喀痰吸引等研修を取り入れましょう。
医療的ケア児の現状
医療的ケア児とは、以下のように生きるためにサポートが必要な児童のことです。
- 口腔内や鼻から定期的な喀痰吸引が必要
- 口から食事を取れない児童に、鼻からカテーテルを通して食事を取るなどの介助
- 呼吸が難しく、喉に専門の器具を装着している児童
- 人工肛門(ストーマ)がある児童の介助
- 血糖値測定やインスリン注射が必要
日本における医療的ケア児は、平成20年に1万人を超え、令和3年には20,180人に増加しています。
出生率は低下していますが、年々医療的ケア児は増えている現状です。増加要因として、医療技術の発達や、NICUの普及が挙げられます。治療によって生きられる子どもが増えたことで、医療的ケア児の人数も増えました。
ここでは、医療的ケア児の年齢について見ていきます。
医療的ケア児の年齢別の割合について、令和元年に調査を行った、「医療的ケア児者とその家族の生活実態調査の報告書」の資料より一部抜粋して紹介します。
引用:医療的ケア児者とその家族の生活実態調査 報告書|三菱UFJリサーチ&コンサルティング14ページ
資料によると、保育園を必要とする0歳〜5歳の割合は約4割と分かりました。3歳が9.6%と一番多い結果です。
このように、保育園を必要とする0歳〜5歳が多いですが、保育園へ通える医療的ケア児はほんの一握りです。ほとんどは、在宅ケアや地域のセンターで過ごしています。
医療や教育、保育園などの分野で医療的ケア児の受け入れる場所が不足し、家族には大きな介護負担がかかっている現状です。
医療的ケア児の保育園受け入れ状況
厚生労働省子ども家庭局保育課による、医療的ケア児を保育園に受け入れている資料については以下の通りです。
引用:「保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドラインについて」|厚生労働省
東京都は施設数が多く、受け入れ人数も多いことが分かります。しかし、受け入れている施設がない県も見られました。
施設がない理由として、以下が挙げられます。
- 医療的ケア児を受け入れるための施設設備が整っていない
- 受け入れるために必要な喀痰吸引等が行える職員がいない
このように、医療的ケア児全員が保育園に入園できるという環境はまだ整ってない現状です。医療的ケア児も集団生活を経験させたいという保護者の思いや、働かなければいけない保護者にとって、医療的ケア児の保育はとても大切なことです。
すべての都道府県で保育できる施設の確保ができるように迅速な対応が求められます。
保育園で医療的ケア児を受け入れるために必要なこと7選
保育園で医療的ケア児を受け入れるために必要なこととして7つ挙げます。
- 保育園の施設の設備
- 地域との連携
- 医療機関との連携
- 保護者との連携
- 医療的ケアを行うスタッフの採用
- 医療的ケアを行うスタッフの研修
- 登録特定行為事業者として保育園を登録する
このように、7つを準備できなければ、医療的ケアを保育園への受け入れは難しいでしょう。全国で医療的ケア児が保育できる環境、施設づくりを作る必要があります。
以下に一つずつ解説します。
保育園の施設の設備
医療的ケア児を保育園で保育するには、保育施設を整備しなければなりません。
車いすや寝たきり状態の医療的ケア児がいるため、健常児とは別の入口を設け、送迎の動線が交わらないようにします。
また、送迎者や緊急車両が横付けできるため、急な体調不良が起こっても、すぐに送迎や搬送が行えるように別の入口を作ることが重要です。
医療的ケア児が必要とする経管栄養を吊すレーンを準備しておくと、いつでも経管栄養に対応できます。
医療的ケア児は、座位や寝転んで活動することが多いため、床暖房や加湿機能を備えた空間を取り入れるなど、過ごしやすい環境づくりが必要です。
参考:病気や障害があっても、みんなが一緒の保育園~専門職の連携により保育所での医療的ケアを実現~
地域との連携
医療的ケア児の受け入れには、市町村で受け入れの可能性について検討しましょう。受け入れにあたっての支援体制、保育園の体制・保育内容や具体的な連携方法等について調整を行います。
児童福祉法により、医療的ケア児の保育の提供にあたっては、自治体が保育所・認定こども園とそのほか関係機関との連絡調整体制の整備に努めることが求められます。
看護師の配置や派遣等について独自の補助等を行っている自治体もあるため、確認をしましょう。また、自治体の保健師が、医療的ケア児がいる家庭と産後すぐの頃から継続的に関わっている場合もあるため、連携して情報共有をはかることが重要です。
医療機関との連携
医療的ケア児の主治医とは、医療ケアに対して意見が得られるように連携する必要があります。医療的ケア児が入院をしていたときの状態や、今の健康状態などの把握を医療機関と連携して確認することで、保育園でも安心に過ごせるようになります。
万が一、容態が急変した場合にどうすればいいのか、地域の医者へ連携を取ってもらうのかなど、主治医や保育園近くの医療機関との相談などを行い、決めておくことも必要です。
また、医師だけでなく、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などから、医療的ケア児の発達状況など、情報を共有しましょう。その児童に必要な保育の方法が分かるようになります。
保護者との連携
保護者と保育園は密接に連携しなければなりません。保育園へ預ける際に、前日の様子や、朝の体調など、子どもの様子を保護者と保育士(または看護師)とで共有します。
また、医療的ケアに必要な器具や物品の引き渡しを行う必要があります。保護者から子どもを預かった保育士は、登園時に保護者から聞き取った情報を医療的ケアを行う職員たちと適切に共有を行うことが重要です。
常に保護者と保育者との情報交換を行うことで、安心安全な受け入れを実現することにつながります。
医療的ケアを行うスタッフの採用
医療的ケア児が保育するためには、保育園に看護職員等(看護師または准看護師、保健師)を1名以上配置することが条件です。
医療的ケアが喀痰吸引等だけの場合、保育士が喀痰吸引等研修を行い、資格を取得していれば、看護師の配置は必ずしも必要ではありません。
また、 医療的ケアを行う場合において、保育提供時間帯を通じて配置した看護職員は、基準の児童指導員等として 計上することが可能です。
例えば、定員10人の場合、保育士1名、看護職員1名で基準の児童指導員等を2名配置したことになります。看護師は児童指導員としてカウントすることが可能なため、保育士不足を補うことができます。
現在は保育士、保育園で働く看護職員が不足しています。特に看護職員は、小児の医療に詳しくなかったり、喀痰吸引等への実力不足だったりと、保育園で勤める看護師が少ないです。人材の確保が難しい中で、最低限の指導員で医療ケア児を保育している現状です。
医療的ケアを行うスタッフの研修
医療的ケア児を保育園で受け入れるために、医療的ケアを行えるスタッフの研修が必要です。
喀痰吸引等研修を行うことで、以下のケアを実施できます。
- たんの吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部
- 経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養)
保育士の場合は、社会福祉士及び介護福祉士法に基づく喀痰吸引等研修を修了し、業務の認定を受けます。保育園に勤める看護師は「医師の指示のもと」で医療的ケアを実施するとされています。
喀痰吸引等研修を受ける際には、弊社のオンライン受講がおすすめです。保育士は人数不足から、なかなか仕事を休めない日があるでしょう。弊社では、好きな曜日で受講ができ、助成金活用などのサポートも行っています。
登録特定行為事業者として保育園を登録する
喀痰吸引等を保育園で行うためには、スタッフの研修、資格取得だけでなく、登録特定行為事業者として登録しなければなりません。
喀痰吸引等研修を受け、都道府県から「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を受けます。そして、登録特定行為事業者の登録を行う手順です。
令和6年3月より電子申請に対応し、24時間受付可能です。喀痰吸引等行為を開始するまでの期間が短縮されました。
研修を受けただけでは、吸引等を実施できないため、注意が必要です。もし、登録せずに、スタッフが吸引等を実施した場合、罰則が与えられます。登録特定行為事業者へ登録するには、事業所がある都道府県のホームページで提出書類などを確認しましょう。
保育園で行える医療的ケアの内容
保育園で行える医療的ケアの内容として、保育士または看護師が対応できることを紹介します。保育士は、喀痰吸引等研修を行ったのち、保育園勤務の看護師から規定回数の指導を受けながら吸引等を実施します。看護師は喀痰吸引等だけでなく、診療の補助や投薬なども行えます。以下に詳しく見ていきましょう。
保育士が対応できる医療的ケア
保育士が対応できる医療的ケアとして、吸引があります。喀痰吸引等研修を行い、看護師の指導を受けながら実施することが可能です。
対応できる医療的ケアは以下の5つです。
- 口腔内の喀痰吸引
- 鼻腔内の喀痰吸引
- 気管カニューレ内の喀痰吸引
- 胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養
- 経鼻経管栄養
保育士は第三号の資格を持つことが多く、特定の児童にのみ医療的ケアができます。もし、担当する児童が変わる場合は、また研修を受けなおす必要があります。
看護師が対応できる医療的ケア
保育園に勤める看護師が対応できる医療的ケアは多くあります。
- 喀痰吸引
- 経管栄養
- 導尿
- 排泄補助
- 人工呼吸器の管理
- 投薬
そのほかにも、保育士や保護者への保険の指導を行ったり、身体測定の行事の補助を行ったりします。最近では、月一回看護師向けの研修会を取り入れる保育園があります。
医療的ケア児を受け入れている保育園では、看護師が1人しかいないということも少なくありません。園内で唯一の「医療従事者」として責任が求められています。
医療的ケアができる保育士がいる保育園の態勢
厚生労働省が発表した資料によると、令和2年の時点で医療的ケア児の受け入れに対応している保育所等は526カ所、受け入れ人数は645人です。
医療的ケアができる保育士がいる保育園の態勢を紹介します。地域からの声で「医療的ケア児」の受け入れを決めた保育園です。看護師を常勤にし、保育士1名は喀痰吸引等研修を行っています。看護師に見守られながら実際に医療的ケア児の吸引等を実践し、経験を積んだといいます。この保育士は、自宅でも練習を重ね、ミスがないように緊張感をもって実践しているそうです。
保育園側の対応として、管が抜けてしまった場合や、保護者と連絡がつかない場合など、細かくマニュアルを作成し、安全安心な保育を行っています。
このように、保育園で保育士と看護師が喀痰吸引等を行えることで、医療的ケア児を受け入れる場所が増えていくでしょう。
医療的ケア児の保育についての課題3つ
医療的ケア児の保育についての課題として3つ挙げます。
- 医療的ケアができる保育士・看護師が足りない
- 保育施設が足りない
- 職員の知識や研修が足りない
課題を解決するために、政府は特定行為事業者への加算や賃金アップ、研修等の費用の助成を行っています。
以下に一つずつ見ていきましょう。
医療的ケアができる保育士・看護師が足りない
そもそも保育士や看護師が足りてない現状です。そして、医療的ケアができる保育士、看護師はさらに少なくなってしまいます。
医療的ケアができる看護師がいないために、医療的ケア児の受け入れができないという点が厚生労働省の調査で課題となっています。
小児医療に携わった経験がなかったり、喀痰吸引の経験がないために実施できなかったりする看護師も多いようです。
保育士が喀痰吸引を行うためには、喀痰吸引等研修を終えて資格を取得し、登録する必要があります。しかし、保育という仕事をしながら、医療に携わるという「責任が重く、仕事量も増える」という観点から、取得する保育士は少ないと考えられます。
今勤めている保育士や看護師が喀痰吸引等研修を行い、率先して助け合いながら医療的ケア児の受け入れを行わなければならないでしょう。
保育施設が足りない
医療的ケア児を保育するための施設が足りないという課題があります。
前章でも述べたように、医療的ケア児が登園する入口を作ったり、器具の準備や園の設備を整えたりしなければなりません。そのためには、費用がかかります。国からの補助金もありますが、実際に施設を変えようとする保育園は少ないです。
少子化ですが医療的ケア児は増えています。これからも医療的ケア児を保育する施設の需要は増えます。しかし、医療的ケア児を受け入れられる施設や職員のノウハウが整っている施設は未だ限られている現状です。
民間の保育園においても、医療的ケア児を受け入れられる体制の整備や支援が必要です。
職員の知識や研修が足りない
医療的ケア児を受け入れるためには、看護師または研修を受けた保育士が必要だと分かりました。看護師は喀痰吸引だけでなく、そのほかの医療的ケアを行う必要があります。そのケアの知識、経験がなければ、実施することが難しいです。
例えば、気管切開児の受け入れの場合です。誤って抜去したとき、カニューレの閉塞
などの緊急時に、気管カニューレの再挿管をしなければなりません。万が一のことを想定して「シミュレーター」を使用しての研修などが必要です。同じく、胃ろう、腸ろうの抜去時の処置についての研修も行う必要があります。
職員の医療的ケア経験がなかったり、知識が不足していたりすることで、保育園での医療的ケア児を受け入れられないという現状もあります。
このように、保育園で医療的ケア児を看る場合は、児童の安全のために知識の習得や研修を行う必要があります。
医療的ケア児の保育支援の補助金や加算について
医療的ケア児を保育園で受け入れると、保育支援の補助金や加算が受け取れます。
医療的ケア児保育支援事業として、令和5年度は5.2億円に予算が拡大されました。
補助基本額の拡大は以下の通りです。
- 基本分単価
効果的・効率的な巡回による看護師配置を行うことを目的として「医療的ケア巡回型」を創設し、1自治体あたり 5,010千円が拡大されました。
- 加算分単価の拡大
① 医療的ケア児の備品補助として、1施設当たり10万円
(医療的ケア児の個別性に応じて必要となる備品 例:抱っこひも・ベッド等)
②災害対策備品整備 【拡充】1施設当たり 10万円
詳しくは子ども家庭庁のサイトをご覧ください。
また、保育園で障がい児を保育する時に加算されるのが、障がい児保育加算制度です。保育士の配置数を増やすための経費を補助するものです。
以下のどれかの要件を満たした児童の受け入れを行い、児童の人数に応じて保育士を配置することで補助金が支給される仕組みです。
- 障がい者手帳を取得している
- 医師から診断を受けている
- 個別の支援を受けている
横浜市では、医療的ケア児等保育受入環境整備補助金を出しています。
施設改修や医療器具など物品購入や、環境の整備にかかる費用に対して最大250万円まで補助するものです。
このように、国からの補助金や加算を活用し、医療的ケア児が保育園へ通える施設づくりや人材確保をしていきましょう。
喀痰吸引等研修を実施し、医療ケア児を保育できる人材を増やそう
この記事では、医療的ケア児を保育園で受け入れるためにできることついて解説しました。
医療的ケア児は増えていますが、まだ保育園に預けられるという仕組みができていないことが分かりました。
その原因として、看護師や保育士不足、職員が医療的ケアを行えないなどが挙げられます。医療的ケア児を保育するには、保育施設の整備や医療器具の準備、医療的ケアを行える人材が必要です。そのために、保育士または看護師ともに、喀痰吸引等研修を行い、実践できるようにしなければなりません。
一方で、保育士が喀痰吸引等研修を行い、看護師が見守りながら吸引を行う保育園も少なからず増えています。補助金や加算も拡大され、医療的ケア児を保育園へ通わせるために取り組みを行っています。
保育士が喀痰吸引等研修を行うことで、医療的ケア児にとって集団生活に踏み入れる第一歩となるでしょう。まだ研修を受講されていない保育士の方、喀痰吸引等研修でお困りの方は、弊社へご相談ください。
本記事は発表当時のデータに基づき、一般的な意見を提供しております。経営上の具体的な決断は、各々の状況に合わせて深く思案することが求められます。したがって、専門家と話し合いながら適切な決定を下すことを強く推奨します。この記事を基に行った判断により、直接的または間接的な損害が発生した場合でも、我々はその責任を負いかねます。