介護の現場における課題とこれからの介護のあり方
:要約:
介護業界で長く働き、現在は運営者として介護に携わっているけれど、介護の現場には課題が多すぎてどのように整理していけばよいのかわからず困っている人はいませんか?
この記事では、介護の現場における課題とは何かからこれからの介護のあり方まで詳しく解説します。
介護現場の現状における課題とその解決策
介護現場の現状における課題には、どのようなことがあるのでしょうか。
2022年に、公益財団法人介護労働支援センターが発表した「令和4年度介護労働実態調査」において介護サービス事業を運営する上での問題点についてたずねた所、次のような結果が出ました。
回答 |
割合 |
良質な人材の確保が難しい |
51.6% |
今の介護報酬では人材の確保・定着のために十分な賃金を払えない |
39.1% |
指定介護サービス提供に関する書類作成が煩雑で時間に追われている |
29.7% |
教育・研修の時間が十分に取れない |
26.9% |
経営(収支)が苦しく労働条件や労働環境改善をしたくてもできない |
25.0% |
新規利用者の確保が難しい |
23.1% |
介護従事者の介護業務に関する知識や技術が不足している |
10.8% |
利用者や利用者の家族の介護サービスに対する理解が不足している |
3.2% |
調査の結果を踏まえて、介護現場の課題を7つご紹介します。
参考:公益財団法人 介護労働支援センター「令和4年度介護労働実態調査について」
人手不足
「令和4年度介護労働実態調査」において、介護の現場で働く人19,890人を対象に労働条件の悩み、不安、不満について聞いた所、「人手が足りない」と回答した人が52.1%で1位でした。
一方、厚生労働省が職業情報提供サイトJobtagで公表している、介護の現場における2022年の各職種の有効求人倍率は次の通りです。
職種 |
有効求人倍率 |
訪問介護員/ホームヘルパー |
14.19 |
施設介護員 |
3.23 |
施設管理者(介護施設) |
5.25 |
介護支援専門員/ケアマネジャー |
4.80 |
訪問介護のサービス提供責任者 |
14.19 |
老人福祉施設生活相談員 |
3.74 |
一番有効求人倍率が低い施設介護員でも求職者1人あたり3件以上の求人があることとなり、介護事業所が募集をかけても人手不足が解消しにくいのが現状の課題であるとわかります。
この課題を解決するため、施設では採用においてどのような工夫をしているのでしょうか。
「令和4年度介護労働実態調査」において、8,632の事業所を対象に職員の採用における工夫についてたずねた所、次のような結果が出ました。
回答 |
割合 |
介護資格や介護経験の有無にこだわらないようにしている |
41.5% |
職員や知人と連絡を密に取り、人材についての情報提供を受けている |
38.2% |
求人に際し、仕事そのものの魅力や労働条件を掲載するなど求人内容を工夫している |
35.2% |
新規学卒者や若手にこだわらないようにしている |
34.6% |
福祉系の教育機関出身にこだわらないようにしている |
32.6% |
自事業所の理念やアピールポイントをHPなどを介して対外的に発信している |
29.3% |
内定後のフォローをしっかり行っている |
20.4% |
採用について従来より多くコストをかけている |
18.6% |
採用説明会や職場体験を実施している |
17.2% |
資格や経験を持つ人が必ずしも利用者の方々が満足する介護サービスを提供できるわけではないため、資格、年齢、経験、学歴にこだわらず採用が行われることで介護職への間口が広くなるのは人手不足を解消するためにも望ましい傾向だと言えるでしょう。
一方事業所の理念などをホームページに掲載したり、採用説明会や職場体験を実施したりするのは採用後のミスマッチを防ぎ、新入社員の早期離職を防ぐためにも良い施策です。
すぐに結果を出すのは難しいですが、職員の採用に工夫を凝らす事業所の方が何もしない事業所と比較すると、人手不足は解消しやすいでしょう。
参考:公益財団法人 介護労働支援センター「令和4年度介護労働実態調査について」
高齢者虐待
画像出典:厚生労働省「令和4年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」
2022年に厚生労働省が発表した高齢者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査において、介護従事者による高齢者虐待の相談・通報件数と虐待判断件数を調べた所、相談・通報件数は前年度より405件(16.9%)増加して2,795件、虐待判断件数は前年度より117件(15.8%)増加して856件でした。
高齢者虐待の相談・通報件数と虐待判断件数は2006年の調査開始以来ほぼ右肩上がりに増加を続け、介護現場における大きな課題となっているのがわかります。
現状行っている対策として、都道府県では高齢者虐待防止法第25条の「公表」の内容に基づき、毎年度高齢者虐待の内容を公表しています。
一方自治体の高齢者虐待対応の標準化にAIを活用するための研究なども行われ、高齢者虐待への対応の更なる品質向上にも努めているのです。
高齢者虐待は法律で規制してもなかなか減らすのは難しいかもしれませんが、少しずつでも対策を取ることで介護現場の意識も変わっていくでしょう。
参考:厚生労働省「令和4年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」
参考:厚生労働省「高齢者の虐待防止に関する老人保健健康増進等事業」
参考:e-GOV法令検索「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」
ハラスメント
2020年に三菱総合研究所が発表した「介護現場におけるハラスメントへの対応に関する調査研究事業」において、介護サービス別に利用者・家族から受けた過去1年間のハラスメントの有無についてたずねた所、次のような結果が出ました。
介護サービスの種類 |
ハラスメントあり |
ハラスメントなし |
訪問介護 |
36.4% |
63.6% |
通所介護、地域密着型通所介護 |
26.4% |
72.6% |
介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 |
27.8% |
72.2% |
認知症対応型共同生活介護 |
22.8% |
74.7% |
介護老人保健施設 |
36.4% |
63.6% |
どの介護サービスにおいても2割以上の人が利用者・家族からのハラスメントの被害にあっています。
一方各介護サービスにおいて、利用者・家族からのハラスメントの発生に備えて事業所で準備していることについてたずねた所、次のような結果が出ました。
|
必ず実施することになっている |
利用者により異なる対応をしている |
実施していない |
実施することなどは考えたこともない |
訪問介護 |
27.2% |
22.2% |
45.7% |
1.9% |
通所介護、地域密着型通所介護 |
31.9% |
15.8% |
45.3% |
3.2% |
介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 |
35.0% |
12.2% |
48.3% |
0.6% |
認知症対応型共同生活介護 |
31.6% |
17.1% |
44.9% |
3.2% |
介護老人保健施設 |
38.5% |
18.2% |
40.6% |
― |
どの介護サービスでも「実施していない」と回答した割合が40%を超えているのです。
このような結果を踏まえ、2022年3月に改訂された「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」においては、重要事項説明書や契約書でどのようなことがハラスメントにあたるのか、ハラスメントの対処方法、場合によっては契約解除になることを利用者・家族に適切に伝えることが大切と明記されています。
今後利用者や家族にあらかじめ協力をあおぎ、少しずつでもハラスメント対策を実行すれば状況は変化していくでしょう。
参考:三菱総合研究所「厚生労働省 老人保健健康増進等事業:令和2年度報告書」
賃金が低い
「令和4年度介護労働実態調査」において、月給で給与が支払われている人37,309人を対象に所定内賃金をたずねた所、次のような結果となりました。
職種 |
所定内賃金 |
労働者全体 |
253,186円 |
訪問介護員 |
237,283円 |
介護職員 |
235,302円 |
サービス提供責任者 |
272,421円 |
生活相談員 |
265,762円 |
介護支援専門員 |
272,101円 |
一方、2022年に厚生労働省が発表した「令和4年賃金構造基本統計調査」によると一般労働者の平均賃金は31万1,800円で、介護業界の労働者全体の平均と比較するとその差は58,614円となっています。
これらのことから賃金が低いのが介護現場の課題だとわかります。
国ではこれを踏まえ、2024年に行われる介護報酬の改定において、介護職員の処遇改善を行うこととしています。
具体的には2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップに確実につながるよう今までの介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算を介護職員等処遇改善加算に一本化し、加算率の引き上げを行うこととしたのです。
介護職員の処遇改善は前の項目でご紹介した人手不足の解消にもつながる施策なので、今後も積極的に行われる可能性が高いのではないでしょうか。
参考:公益財団法人 介護労働支援センター「令和4年度介護労働実態調査について」
参考:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
介護におけるDX推進
「令和4年度介護労働実態調査」において、介護ロボットの導入や利用をするにあたっての現状の課題についてたずねた所、次のような結果でした。
回答 |
割合 |
導入コストが高い |
55.4% |
投資に見合うだけの効果がない |
35.5% |
技術的に使いこなせるか心配である |
32.4% |
設置や保管などに場所を取られてしまう |
32.3% |
誤作動の不安がある |
31.4% |
清掃や消耗品管理などの維持管理が大変である |
29.3% |
どのような介護ロボットやICT機器、介護ソフトがあるかわからない |
24.6% |
ケアに介護ロボットを活用することに違和感を覚える |
22.3% |
介護現場の実態にかなう介護ロボットやICT機器がない、現場の役に立つ物がない |
17.1% |
介護ロボットに関しては、費用対効果があまりよくなく、設置場所や維持管理で手間も多くかかると感じて導入が進まないのが現状であるとわかります。
一方ICT機器を導入するに導入や利用をするにあたっての現状の課題についてたずねた所、次のような結果でした。
回答 |
割合 |
導入コストが高い |
52.4% |
技術的に使いこなせるか心配である |
33.0% |
どのような介護ロボットやICT機器、介護ソフトがあるかわからない |
19.1% |
投資に見合うだけの効果がない |
16.0% |
誤作動の不安がある |
12.7% |
清掃や消耗品管理などの維持管理が大変である |
10.2% |
設置や保管などに場所を取られてしまう |
5.6% |
介護現場の実態にかなう介護ロボットやICT機器がない、現場の役に立つ物がない |
5.4% |
ICT機器の導入については半数の事業所がイニシャルコストの高さを挙げています。
介護ロボットの導入に関する課題を解決するため、「福祉用具・介護ロボット実用化支援・広報等一式」事業で設置された相談窓口において導入相談ができる体制が整えられています。
また介護のICT化についてはは厚生労働省で導入の手引きを発信しているだけではなく、セミナーをYouTubeで公開し、現場の課題解決のための情報提供が積極的に行われているのです。
介護ロボットやICT技術を介護に導入することのメリットや好事例が少しずつでも広まることで、介護業界のDXも少しずつ進んでいくのではないでしょうか。
参考:公益財団法人 介護労働支援センター「令和4年度介護労働実態調査について」
参考:公益財団テクノエイド協会「福祉用具・介護ロボット実用化支援・広報等一式(令和6年度)」
介護職員の質の向上
「令和4年度介護労働実態調査」において、介護業界で働く人19,890人を対象に今の職場で受講した研修についてたずねた所、次のような結果でした。
研修の内容 |
割合 |
高齢者虐待の防止に関する研修 |
68.2% |
衛生管理(感染症・食中毒予防等)に関する研修 |
65.0% |
身体拘束に関する研修 |
61.8% |
事故防止・発生時の対応に関する研修 |
60.2% |
緊急時の対応に関する研修 |
59.8% |
非常災害対策に関する研修 |
52.4% |
秘密保持に関する研修 |
49.5% |
苦情処理に関する研修 |
37.8% |
看取りに関する研修 |
34.9% |
前の項目でご紹介した高齢者虐待に関する研修、また緊急時の対応に関する研修の受講が半数を超え、現場で早急に解決しなければならない課題に合わせた研修が積極的に行われているのがわかります。
しかし更なる介護職員の質の向上を求めるとなると、調査結果に現れている研修内容だけでは不足している可能性もあるでしょう。
介護職員がたんの吸引や経管栄養の対応ができるようになるのを目的とした研修を「喀痰吸引等研修」と呼びます。
制度自体は2012年からありますが調査結果を見るとまだあまり浸透していないので、この研修を介護職員に受けさせることで、他の事業所との差別化につながるでしょう。
喀痰吸引等研修を介護職員に受講させ、介護職員の質の向上と他事業所との差別化につなげたい方は次のページもごらんください。
介護職員がたんの吸引や経管栄養の対応を可能とする「喀痰吸引等研修」の概要とその効果について解説します。 (presence-m.com)
参考:公益財団法人 介護労働支援センター「令和4年度介護労働実態調査について」
経営が苦しい
2023年に株式会社東京リサーチで老人福祉・介護事業の休廃業・解散調査を行った所、2023年の「老人福祉・介護事業」の倒産は122件で過去2番目を記録しました。
介護事業所は介護報酬に収入を依存している場合が多いため、収入を増やすのは難しいと感じるかもしれませんが、介護保険外サービスという介護保険の対象には含まれていないサービスを提供して売上を増やす方法もあります。
介護保険外サービスは介護保険の対象ではないので価格を事業所が自由に設定でき、介護保険が保障する日常生活動作=ADLではなく生活の質=QOLの向上を目指したサービスが提供できるのです。
地域の介護事業所の倒産は利用者の不利益にもつながるため、早急な現場での課題解決が求められるでしょう。
参考:東京商工リサーチ「介護事業者の倒産は過去2番目、休廃業・解散は過去最多の510件人不足、物価高で『訪問介護』の倒産は最多更新」
これからの介護のあり方とは?
将来へ向けて介護現場の課題解決をし、望ましいこれからの介護のあり方を実現するためには、どのようなことに目を向ければよいのでしょうか。
3つご紹介します。
認知症への対応力強化
2023年11月27日に行われた第232回社会保障審議会介護給付費分科会では、認知症への対応力強化について話し合いが行われました。
具体的には今後認知症患者の方にもっと寄り添ったケアをするために、介護報酬面である認知症ケア加算の見直し、認知症の行動・心理症状を理解してケアをするための研修の見直しなどについて検討されたのです。
認知症にかかっても適切なサポートを受けながら、住み慣れた地域で生活できる体制作りが少しずつ進んできていると言えるでしょう。
参考:厚生労働省「第232回社会保障審議会介護給付費分科会資料」
生産性の向上
2023年9月8日に行われた第233回社会保障審議会介護給付費分科会では、介護現場における生産性の向上について話し合いが行われました。
具体的には介護ロボット、ICT機器の導入、介護助手の手を借りることで業務負担の軽減を図り、利用者と介護職員が接する時間を増やすにはどうすればよいかが検討されたのです。
介護職員の身体とメンタルに余裕を持ってもらうことで、より質の高い介護サービスを利用者に提供できるようになっていくでしょう。
参考:厚生労働省「第223回社会保障審議会介護給付費分科会(Web会議)資料」
経営の協同化・大規模化
第233回社会保障審議会介護給付費分科会では、経営の協同化・大規模化についても話し合いが行われました。
人材不足や生産性の向上、安定的な介護サービスを提供するには介護事業所の協同化・大規模化を進めるのが現状望ましいため、社会福祉連携推進法人といった新しい制度を作り少しずつ対応を進めているのです。
利用者が安心してサービスを受け、介護職員も安心して長く働ける環境を整えるのが今後の急務と言えるでしょう。
参考:厚生労働省「第223回社会保障審議会介護給付費分科会(Web会議)資料」
介護職員の質の向上を目指せる研修を開催し続けます
株式会社プレゼンス・メディカルでは、介護職員の質の向上と他事業所との差別化につなげられる喀痰吸引等研修を積極的に開催しています。
介護職員の皆様方に研修を受けてもらう前の不安を少しでも解消するため、2024年6月は「喀痰吸引等研修合同説明会」の開催も予定しています。
興味のある方は次のページより詳細をごらんください。
「喀痰吸引等研修合同説明会」開催のお知らせ (presence-m.com)
まとめ
介護現場における課題は多岐に渡りますが、国や現場で働く人たちが積極的にその解決に動き、利用者にとっても働く人にとっても望ましいこれからの介護のあり方を模索しているのがわかります。
この記事も参考にして、ぜひ介護の現場における課題解決策を見出してみてください。
本記事は発表当時のデータに基づき、一般的な意見を提供しております。経営上の具体的な決断は、各々の状況に合わせて深く思案することが求められます。したがって、専門家と話し合いながら適切な決定を下すことを強く推奨します。この記事を基に行った判断により、直接的または間接的な損害が発生した場合でも、我々はその責任を負いかねます。