重度訪問介護とは?対象者から事業所が行うメリット
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要約:
重度訪問介護は、障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つで、重度の身体障がいや知的障がい、精神障がいを持つ人に対し、自宅での入浴や排せつ、食事などの日常生活の支援や、外出時の移動支援を行います。特に障害支援区分が高い人に提供されることが多く、24時間介護が必要なケースが中心です。さらに、入院中でもコミュニケーション支援が行われる場合があり、2024年の改定により、支援の範囲が拡大しました。
重度訪問介護とは?
重度訪問介護とは障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの1つで、重度の肢体不自由、重度の知的障がいや精神障がいのため行動に著しい困難があり常に介護を必要とする人に対し、自宅で入浴、排せつ、食事の介護、外出時における移動支援、入院時の支援などを総合的に行います。
重度訪問介護の制度の内容は以下の通りです。
項目 |
概要 |
対象者 |
l 障害支援区分が区分4以上(病院などに入院または入所中に利用する場合は区分6で、入院または入所前から重度訪問介護を利用していた人)であって、次のいずれかにあたる場合
1. 次のどちらにもあたる人 a.二肢以上に麻痺などがある b.障害支援区分の認定調査項目のうち「歩行」「移乗」「排尿」「排便」のいずれも「支援が不要」以外と認定されている
2. 障害支援区分の認定調査項目のうち行動関連項目等(12項目)の合計点数が10点以上の人 |
サービスの内容 |
自宅などにおける l 入浴、排せつ、食事などの介護 l 調理、洗濯、掃除などの家事 l その他生活全般にわたる援助 l 外出時における移動中の介護 l 入院中の病院などにおける意思疎通支援(2019年10月追加)など ※日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守りなどの支援を含む |
人員基準(主なもの) |
l サービス提供責任者 常勤ヘルパーのうち1名以上(介護福祉士、実務者研修修了者、居宅介護職員初任者研修修了者などであって3年以上の実務経験がある人)
l ヘルパー 常勤換算2.5人以上(居宅介護に従事可能な人、重度訪問介護従事者養成研修修了者) |
報酬単価 |
l 基本報酬 185単位(1時間未満)~1,412単位(8時間未満) ※8時間を超える場合は、8時間までの単価の95%を算定
l 加算(主なもの) 特定事業所加算(10%または20%加算) 行動障害支援連携加算(30日間1回を限度として1回につき584単位加算) 喀痰吸引等支援体制加算(1日当たり100単位加算) |
障害支援区分とは障がいの特性や心身の状況に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを表す6段階の区分のことで、1~6まで(6の方が支援の度合いが高い)の数値で表されます。
介護保険サービスの要介護度に近いものだと考えるとわかりやすいでしょう。
これを踏まえて対象者を考えると、重度訪問介護はさまざまな障がいのために行動するのが困難で24時間介護が必要な人のためのサービスだと言えます。
参考:社会福祉法人全国社会福祉協議会「障害者総合支援法のサービス利用説明パンフレット(2021年4月版)」
重度訪問介護の現状
重度訪問介護の現状を需要、利用者の障害支援区分、利用時間と費用月額の3つの観点からご紹介します。
需要
画像出典:厚生労働省「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム 第36回 重度訪問介護に係る報酬・基準について≪論点等≫」
事業所を運営する側としては、集客をするためにも重度訪問介護への需要がどのくらいあるのかを知っておきたいのではないでしょうか。
2023年9月19日に厚生労働省の障害福祉サービス等報酬改定検討チームが発表した「重度訪問介護に係る報酬・基準について」という資料では、上記のグラフで利用者数と事業所数の推移を発表しました。
利用者数は2012年(平成24年)と2022年(令和4年)で比較すると1.34倍に増加しているため、少しずつ需要は増えているのがわかります。
一方事業所数は2012年と2022年で比較すると1.31倍と利用者数よりはゆるやかな増加となっているため、まだ参入する余地はあると考えてよいでしょう。
利用者の障害支援区分
画像出典:厚生労働省「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム 第36回 重度訪問介護に係る報酬・基準について≪論点等≫」
重度訪問介護を利用する人の障害支援区分の数値はどのような割合になっているのでしょうか。
「重度訪問介護に係る報酬・基準について」で2020年(令和2年)~2022年(令和4年)までの障害支援区分別にみた利用者数の割合について調べた所、区分4、区分5、区分6の割合にはほとんど変化がないものの、2020年と2022年で比較すると区分6の人が0.6%増加しています。
重度訪問介護を利用する人は障害支援区分の数値が高い人の割合が多く、サービスをたくさん利用してくれる可能性が高いため、他のサービスと比較すると売上にはつながりやすいと言えるでしょう。
利用時間と費用月額
画像出典:厚生労働省「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム 第36回 重度訪問介護に係る報酬・基準について≪論点等≫」
「重度訪問介護に係る報酬・基準について」で1か月の利用時間別の人数と費用月額別の人数について調べた所、1人あたりの平均利用時間は235時間、1人当たりの平均費用月額は884,520円だとわかりました。
利用時間の中で一番多いのが700時間以上で3%(426 人)を占め、費用月額は10万円~50万円未満で31%を占めることから、重度訪問介護はそれなりに儲かるサービスなのがわかります。
重度訪問介護における報酬単価改定のポイント
2024年に行われた障害福祉サービス等の報酬改定においては、重度訪問介護についても報酬単価の改定が行われました。
改定のポイントである「入院中の重度訪問介護利用の対象拡大」「入院中の重度訪問介護利用における入院前の医療と障害福祉の連携した支援への評価」「熟練従業者による同行支援の見直し」の3つについて詳しくご紹介します。
入院中の重度訪問介護利用の対象拡大
障害支援区分が4、5、6で病院などに入院する前から重度訪問介護を受けている利用者が、入院中も特別なコミュニケーション支援を必要とする場合、重度訪問介護を使って支援を引き続き受けることができます。
改定前は障害支援区分6の人のみを対象としていましたが、4、5の人も利用できるようになったのです。
具体的には利用者の状態をよく知っている重度訪問介護の担当者が、入院中もコミュニケーションを支援することで適切な医療サービスを受けられる場合などに、付き添ってサポートすることが可能となりました。
障害支援区分4、5の人も対象となったことから、重度の障がいのためコミュニケーションが困難で適切な治療を受けられない可能性がある人の利用が増えるでしょう。
入院中の重度訪問介護利用における入院前の医療と障害福祉の連携した支援への評価
重度訪問介護の利用者が重度訪問介護の担当者に付き添ってもらう形で入院する時、入院前に重度訪問介護と医療機関の関係者が事前調整を行った場合、入院時支援連携加算として300単位を加算します。
関係者とは以下の人たちを指します。
項目 |
概要 |
重度訪問介護 |
l 相談支援専門員 l 重度訪問介護事業所職員(サービス提供責任者、管理者、従業員) l その他訪問介護などの関係者 |
医療機関 |
l 医師 l 看護師 l 事務員 |
また具体的な事前調整の内容は次の通りです。
- 障害者本人、障害福祉サービス等事業者から医療機関への伝達事項
- 医療機関から障害福祉サービス等事業者への伝達事項
- 医療機関と障害福祉サービス等の調整
利用者の普段の生活を支える重度訪問介護の担当者が医療機関に必要な情報を提供し、どのように連携をするかを話し合って決めておくことにより、利用者の入院生活がより快適なものへと変化するでしょう。
熟練従業者による同行支援の見直し
障害支援区分6の利用者に対し初めての担当者が支援を行う時に、経験を積んでスキルが高い担当者が同行して支援のサポートをした場合、所要時間120時間以内に限り、所定単位数の100分の90に相当する単位数を算定します。
営業職において新人営業職が上司と同行営業でOJTをするのはよく見られる光景ですが、重度訪問介護においてもこのような同行支援が評価されるということです。
重度訪問介護において現場での新人育成をスムーズに行うためにも知っておきたい改定です。
参考:厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要」
重度訪問介護を事業所が行うメリット
重度訪問介護を事業所が行うメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
長時間利用してもらえるので儲かる可能性が高い
画像出典:厚生労働省「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果」
厚生労働省が公表している「障害福祉サービス費等の報酬算定構造」の資料において、重度訪問介護サービス費を他のサービス費と比較してみると、24時間利用を想定し平均利用時間も実際に長いため、それなりの報酬がもらえるとわかります。
また2023年に厚生労働省が行った「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査」の結果によると、重度訪問介護の収支差率(介護事業所の売上に対する利益率)は7.1%で他の訪問系サービスと比較しても高く、黒字経営できる可能性は高いと言えるでしょう。
参考:厚生労働省「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果」
障害支援区分の数値が高い人が多いので加算をもらえる可能性が高い
前の項目でご紹介した通り、重度訪問介護の利用者は障害支援区分が6の人が80%を超え、それに応じたサービスを提供する必要があるため、報酬の中でも加算がもらえる可能性が高くなります。
例えばたんの吸引が必要な利用者に対して吸引を実施した場合にもらえる喀痰吸引等支援体制加算、利用者本人や家族からの要請があり緊急でサービスを行った場合にもらえる緊急時対応加算などがそれにあたります。
加算が少しずつ積み重なることで、利益が増やせるでしょう。
熟練従業者による同行支援がしやすくなったので人材育成がしやすい
前の項目でもご紹介した通り、重度訪問介護においては同行支援が評価されるようになったので、人材育成がしやすい環境になったと言えるでしょう。
スキルの高い人材が持つ知識や経験を新人に教える機会が増えれば、事業所全体のサービスに対する満足度が向上し、さらなる売上アップにもつながりやすくなります。
重度訪問介護を事業所が行うデメリット
重度訪問介護を事業所が行うデメリットには、従業員の負担が大きくなることが挙げられるでしょう
重度訪問介護を利用するのは主に障害支援区分が6の人であるため、それだけサービスをする際に従業員にかかる負荷は大きいものとなってしまいます。
しかし重度訪問介護で増えた利益を従業員に給料やボーナスで還元することができれば、負荷が大きくても前向きに取り組んでくれる可能性は上がるでしょう。
重度訪問介護の開業手続きとは
事業所で重度訪問介護を行うためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。
5つのSTEPにわけてご紹介します。
【STEP1】法人格を取得する
重度訪問介護を行うためには事業所が法人でなければならないため、法人格を取得します。
法人格を取得するには、法人の種類により以下のような手順の違いがあるので注意が必要です。
法人の分類 |
法人の種類 |
法人格の取得手順 |
営利法人 |
l 株式会社 |
1. 基本事項(商号、事業目的、本店所在地、事業年度、設立時の出資金額、役員)などを決める 2. 印鑑登録と印鑑証明書の取得 3. 公証人による定款認証を受ける 4. 取締役が設立時に設立登記をする |
l 合同会社(LLC) |
1. 基本事項(商号、事業目的、本店所在地、事業年度、設立時の出資金額、役員)などを決める 2. 印鑑登録と印鑑証明書の取得 3. 定款の作成 4. 役員が設立登記をする |
|
非営利法人 |
l 一般社団法人 l 財団法人 |
1. 基本事項(目的、社員、役員など)を決める 2. 公証人による定款認証を受ける 3. 役員が設立時に設立登記をする |
l NPO法人 |
1. 基本事項の決定と定款の作成 2. 設立総会を開催 3. 所轄官庁へ設立認証を申請 4. 認証を受けた後設立登記をする |
既に法人格を持っている場合は、定款の事業目的に実施事業の文言が入っている必要があるので注意しましょう。
【STEP2】人員基準を満たす
次に重度訪問介護の人員基準を満たしましょう。
基準の概要は以下の通りです。
項目 |
配置基準 |
資格要件 |
管理者 |
l 1名(常勤で専従) |
l なし |
サービス提供責任者 |
l 事業の規模に応じて1名以上(常勤で専従) ※兼務に制限あり |
l 介護福祉士 l 介護職員基礎研修課程修了者 l 訪問介護員養成研修1級課程修了者 l 訪問介護員養成研修2級課程修了者であって、3年以上介護等の業務に従事した経験がある人 |
居宅介護員など |
l 常勤換算方法で、2.5人以上(サービス提供責任者を含む) |
l 介護福祉士 l 介護職員基礎研修課程修了者 l 訪問介護員養成研修1級課程修了者 l 訪問介護員養成研修2級課程修了者であって、3年以上介護等の業務に従事した経験がある人 |
人材不足であることも考え、スケジュールに余裕を持って募集をしましょう。
【STEP3】設備基準を満たす
重度訪問介護を行うためには、事務室、相談スペース、手指洗浄の設備、その他事業に必要な設備、備品(鍵付書庫ほか)を備える必要があります。
事業を運営する上で支障のない部屋や設備を確保しましょう。
【STEP4】運営基準を満たす
重度訪問介護は厚生労働省令で定める運営基準に基づいて運営をする必要がありますが、主な内容は次の通りです。
- 管理者、サービス提供責任者の責務
- 運営規程
- 勤務体制の確保
- 業務継続計画の策定
- 内容や手続の説明および同意
- 提供拒否の禁止
- サービス提供困難時の対応
- 受給資格の確認
- 身分を証する書類の携行
- サービス提供の記録
- 利用者負担額などの受領
適正な事業の運営をするためにも、事業者は運営基準の内容をよく理解しておくことが大切です。
【STEP5】指定申請をする
最後に地方自治体へ指定申請をします。
指定申請に必要な書類は地方自治体によって異なりますが、例えば埼玉県のホームページでは必要な書式、申請書の提出期間、参考資料などがまとめて掲載されているのです。
申請書が受理されれば事業所として指定されたということなので、開業することができます。
参考:厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準」
参考:東京都福祉局「障害福祉サービス事業(居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護)」
参考:埼玉県「事業者指定の手続き(居宅介護・重度訪問介護・行動援護・同行援護)」
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記事でご紹介した内容を一度で全て理解し実行するのはなかなか難しいため、各企業の皆様のご方針に合わせ、スモールステップで開業に向けて共に歩みたいと考えているのです。
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まとめ
重度訪問介護とは障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの1つで、重度の肢体不自由、重度の知的障がいや精神障がいのため常に介護を必要とする人に対し、自宅でさまざまな支援を行います。
この記事も参考にして、ぜひ重度訪問介護への参入を前向きに検討してみてください。
本記事は発表当時のデータに基づき、一般的な意見を提供しております。経営上の具体的な決断は、各々の状況に合わせて深く思案することが求められます。したがって、専門家と話し合いながら適切な決定を下すことを強く推奨します。この記事を基に行った判断により、直接的または間接的な損害が発生した場合でも、我々はその責任を負いかねます。