感情認識AIとは?仕組みから介護の現場での活用事例
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要約:
感情認識AIとは、人間の感情を認識・分析できる人工知能のことで、介護現場において注目されています。感情認識AIは、表情や声のトーン、身体の動き、心拍数などを解析し、正確に感情を理解します。介護現場で注目される背景には、利用者からのハラスメント問題、人手不足、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が挙げられます。例えば、ハラスメント予防として感情の高まりを予測することで介護者の負担軽減に役立ちます。また、AIによるリアルタイムの感情変化の把握やコミュニケーション支援により、介護の質の向上と業務効率化を図れます。しかし、プライバシーの懸念やAIの誤認識、AIへの過度な依存などのデメリットもあるため、導入前の十分な検討が必要です。
感情認識AIとは?
感情認識AIとは人間の感情を認識・分析できる人工知能のことです。
感情認識AIはカスタマーサポート、教育、マーケティングや広告、医療や介護などさまざまな分野で活用され、人間の感情に寄り添ったサービスをするためのサポートを行っています。
感情認識AIの仕組み
感情認識AIはカメラやマイク、センサーなどを使って次のような生体反応の要素を収集・解析し、人間がどのような感情を抱いているかを判断します。
- 表情
- 声のトーン
- 言葉の選び方
- 身体の動き
- 目の動きやまばたきの頻度
- 体温の変化
- 心拍数や呼吸のリズム
- 姿勢や体の傾き
- 皮膚の電気活動(ガルバニック皮膚反応)
- (手書きの場合)筆跡や文字の書き方
ガルバニック皮膚反応とは、人間の皮膚には汗の分泌により電気の流れやすさが変化する特性があるため、それを用いて感情の高まりやストレスレベルを評価するものです。
感情認識AIは収集した生体反応の要素を組み合わせることで、より正確に人間の感情を理解し解析できるようになります。
まだ発展途上ではありますが、今後は精度も高まり未来に向けた発展が期待できるAI技術の1つだと言えるでしょう。
感情認識AIが介護の現場から注目されるようになった背景
感情認識AIが介護の現場から注目されるようになった背景には、どのようなことがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
介護士が利用者からハラスメントを受けることがあるため
画像出典:日本介護福祉士会「介護現場におけるハラスメントの実態と対応策に関する調査」
2022年に日本介護福祉士会が発表した「介護現場におけるハラスメントの実態と対応策に関する調査」において、介護福祉士158人を対象にパワーハラスメントの類型の1つである「精神的な攻撃」の有無をたずねた所、60%の人が「はい」と回答しました。
続いて誰から受けたかを聞くと利用者が73.1%、利用者の家族が63.4%となっており、介護の現場におけるハラスメント対応の難しさをうかがわせる結果となっています。
精神的な攻撃の具体的な内容は「攻撃的な態度で大声を出された」が72.0%で圧倒的に多い結果となりましたが、感情認識AIで利用者の感情の高ぶりを予測することができれば、ハラスメントへの有効な対策の1つとなります。
介護の現場を働く人にとっても利用者やその家族にとっても快適な環境とするために、感情認識AIは大いに役立つでしょう。
人手不足
画像出典:厚生労働省「令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-(本文)」
2022年に厚生労働省が発表した「令和4年版厚生労働白書」において、2040年の医療・介護サービスへの需要から推計した必要人員は1,070万人と試算されました。
一方「未来投資戦略2018」を踏まえた高成長が実現し、労働市場への参加が進むケースでも医療・介護サービスでの就業者は974万人になると試算され、96万人の人員が不足すると考えられているのです。
このことから介護の現場では更なる業務の効率化が進むと予想されるため、感情認識AIで利用者の感情を尊重しつつ適切なサポートをするといった対応が行われるようになるでしょう。
参考:厚生労働省「令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-(本文)」
DXの推進
2022年に株式会社富士キメラ総研が発表した「2022 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編」によると、2020年の医療・介護におけるDXの国内市場規模は731億円でしたが、2030年では2,115億円(2020年度比2.9倍)に拡大すると予想されています。
介護業界ではコロナ禍をきっかけにDXが少しずつ進んでいると言えますが、前の項目でもご紹介したように人材不足になることが予想されるため、今後さらにDXが進みAIやICT、また介護ロボットなどの技術が現場に取り入れられていくでしょう。
感情認識AIはまだ介護業界にはあまり浸透しているとは言えませんが、これから技術の発達とともに活用の場は増えていくのではないでしょうか。
参考:株式会社富士キメラ総研 プレスリリース「『2022 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編/ベンダー戦略編』まとまる(2022/3/15発表 第22025号)」
感情認識AIを介護の現場で活用するメリット
感情認識AIを介護の現場で活用するメリットは以下の通りです。
- 利用者の感情変化がリアルタイムでわかる
- 利用者とのコミュニケーションがスムーズになる
- 介護の現場で働く人たちの負担を軽減できる
- データを活用してケアの質を向上させられる
- 緊急時に迅速に対応できる
感情認識AIを介護の現場で活用すると、業務の効率化が進み負担の軽減にもつながるのがわかります。
感情認識AIを介護の現場で活用するデメリット
感情認識AIを介護の現場で活用すると次のようなデメリットもあります。
- 利用者がプライバシーを侵害されていると感じる場合がある
- 感情認識AIが感情を誤って認識する場合もある
- 感情認識AIに依存しすぎて働く人たちが観察やコミュニケーションを怠る可能性が出てくる
感情認識AIを導入する前に、自分の事業所ではデメリットの方がメリットより大きくならないか、またデメリットに対する解決策があるかを考えてみるのが大切です。
感情認識AIを介護の現場で活用した事例
感情認識AIを介護の現場で活用した事例を、研究事例と実際に活用した事例の2つにわけてご紹介します。
感情認識AIを介護の現場で活用するための研究事例
感情認識AIを介護の現場で活用するための研究事例を2つご紹介します。
日立とNTTBPが行った利用者の感情変化の予兆を検知する実証実験
2024年8月6日に、株式会社日立製作所とエヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォーム株式会社は、AIを活用し介護施設入居者の感情変化の予兆を検知する実証実験を行うと発表しました。
介護の現場で働く人たちが利用者の感情を正しく理解できないと、適切なサポートやコミュニケーションにつながらず双方にストレスや負荷がかかるため、安心・安全の確保と介護サービスの質の向上を目的としいて実証実験を行ったのです。
具体的な検証方法は次の通りです。
項目 |
概要 |
感情の観察 |
l 介護施設特有の環境に配慮し以下の2つのシーンにおける入居者の様子を6日間撮影 1. スタッフと入居者が1対1でコミュニケーションを行い、衣服の手入れや薬の管理など入居者の個別のニーズに合わせたサポートが必要な居室の様子 2. 入居者同士が集まり、会話や交流を行う食堂での食事の様子や、健康運動を行う様子 |
感情の分析 |
l AIを活用し、撮影したデータの映像と音声から入居者の感情を分析 l 各シーンにおいて入居者が7種類(怒り、悲嘆、恐れ、平静、嫌悪、幸福、驚き)の感情のうち、最も割合の大きかったものに分類 |
要因の分析 |
l 入居者のプロファイリング情報、スタッフが記入する介護記録、入居者の感情に関するアンケート結果を撮影データの分析結果と組み合わせることで、どのようなシーンでどのような感情になるかを把握 l 不快感やネガティブな感情変化を示す要因を分析 |
実証実験の結果、AIを活用して分析した入居者の各シーンにおける感情の分類は、実際に対象者が感じた感情の分類と約75%の精度で一致しました。
このことから入居者の感情変化の予兆を捉えるためにAIを活用するのは有用だと言えます。
また、介護の現場で今後どのように感情認識AIを活用すればよいのかを考えるきっかけを作る実験だったとも言えるでしょう。
参考:NTTBP「AIを活用し介護施設入居者の感情変化の予兆を検知する実証実験を実施」
参考:株式会社日立製作所「AIを活用し介護施設入居者の感情変化の予兆を検知する実証実験を実施」
東京情報大学池田幸代准教授が行ったコミュニケーションロボットの研究
東京情報大学総合情報学部経営イノベーション研究室の池田幸代准教授は、介護事業所においてコミュニケーションロボットを活用すると利用者にどのような効果があるかについての研究を行い、第22回日本遠隔医療学会学術大会で優秀論文賞を受賞しました。
この研究は、介護の現場で働く人たちがゆとりを持って専門業務に集中し手厚いケアができる環境を整備するために、心理療法的な観点からロボットを活用する試みが行われているのを背景に行われました。
実験ではコミュニケーションロボットとして介護事業所にPepperを導入し、感情認識AIを応用した表情分析ソフトを利用して、Pepperがある状況とない状況を比較・分析しました。
その結果Pepperがある状況では、嫌悪の値が低く、喜びやEngagent(表情筋の動き全般)の数値が高い傾向が見られたのです。
また観察から、Pepperについての会話を通じて利用者が自発的に介護職員や他の利用者とのコミュニケーションを取ろうとする意欲も見受けられました。
このことから介護事業所でコミュニケーションロボットと感情認識AIを連携して使用することは、QOL(生活の質)の向上に役立つと言えるでしょう。
参考:東京情報大学「池田幸代准教授が、第22回日本遠隔医療学会学術大会で優秀論文賞を受賞しました」
感情認識AIの介護の現場における活用事例
感情認識AIを実際に介護の現場で活用した事例を3つご紹介します。
コニカミノルタとエモテック・ラボが認知機能低下の早期発見で技術連携
2023年2月22日、コニカミノルタ株式会社と株式会社エモテック・ラボは認知症の評価に利活用するのを目的として、エモテック・ラボの感情AI評価ソフトウェア「感情認識AI[Kansei Driven Engine【KDE】]」と、コニカミノルタの「HitomeQ(ひとめく)ケアサポート」で技術提携すると発表しました。
この技術連携で両社は高齢者の歩行と会話に着目し、双方が持つAIやデータを利用して認知機能の低下を検知する新たな予測AIアルゴリズムの開発を目指すことにしたのです。
具体的には、「話し方・会話内容・感情推移」「歩行」の分析によって「次世代認知機能低下検知ソリューション」を開発します。
「話し方・会話内容・感情推移」については、「HitomeQ ケアサポート」によって取得した介護施設利用者の音声データを感情認識AI「Kansei Driven Engine【KDE】」で分析します。
「歩行」については、「HitomeQ ケアサポート」が介護施設利用者の行動データを取得すると同時に画像認識AIで分析するのです。
最終的には2つの分析データを認知症の各フェーズや症状ごとの評価に利活用できるよう、エモテック・ラボの行動心理学に基づく感情交流のビッグデータに照らし合わせて、認知症早期発見や認知機能低下検知の新たな予測AIアルゴリズムを構築します。
認知機能低下を早期に発見できる精度の高い予測AIアルゴリズムを作り出すことができれば、認知症の早期発見や治療につながるため、家族や介護の現場で働く人たちの負担軽減につながるでしょう。
参考:コニカミノルタ「コニカミノルタとエモテック・ラボ 認知機能低下の早期発見で技術提携」
リスク計測テクノロジーズとPLEN Roboticsが介護士のメンタル管理で業務提携
2021年6月23日、リスク計測テクノロジーズ株式会社とPLEN Robotics株式会社は、介護施設における顔認証・検温・モチベーション計測の機能があるAIアシスタントの有用性を検証するため、業務提携に合意しました。
具体的には、元々リスク計測テクノロジーズ株式会社が開発した声だけでモチベーションを可視化できるアプリMotivelを、PLEN Robotics株式会社が開発したAIアシスタントPLEN Cubeに搭載した「PLEN Cube モチベーション管理版」を共同開発し、実証実験を行うのです。
両社は介護の現場で働く人たちが楽しみながら顔認証による出退勤チェック、検温、モチベーション計測をすることで、介護業界の業務効率化を目指すとしています。
介護業界でAIアシスタントが導入され、働く人たちが専門業務に集中できればより介護サービスの質が上がり、利用者の皆さんのQOL向上に結び付くでしょう。
参考:PLEN Robotics × Rimtech「従業員の離職にお困りの経営者様へ」
特別養護老人ホームうすきの里に導入された感情認識AI「SORO」
社会福祉法人喜入会が運営する特別養護老人ホームうすきの里では、感情認識AI「SORO」を導入し、介護サービスに役立てています。
SOROはタブレット内の内臓カメラを利用して、利用者の顔の筋肉7,000か所のデータを表情解析に出します。
動画が画面に流れますが、利用者の感情を数値化して分析し好みに合った動画が流れるようにAIがカスタマイズをしてくれるのです。
特別養護老人ホームは原則として要介護3以上の利用者が入居するため、働く人の業務量が多い傾向にありますが、SOROを用いることでずっと利用者に付き添いをするのではなく、見守りをしながら他の業務をすることができるようになるでしょう。
参考:SORO公式ホームページ
参考:MBCラジオ ふくしのラジオ!「EP#27 特別養護老人ホーム うすきの里開設!」
株式会社プレゼンス・メディカルにご相談ください
株式会社プレゼンス・メディカルは、介護事業者の経営安定を支援するためのコンサルティングを提供しています。既に事業所を運営している企業や、介護業界への参入を検討している企業に対し、開業から運営までの全プロセスをサポートします。
介護業界は複雑で多岐にわたる課題が存在しますが、プレゼンス・メディカルは各企業の方針に合わせたスモールステップでの導入を推奨しています。これにより、無理なく確実に目標を達成することが可能です。
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AIを活用したコミュニケーション支援サービスを提供
株式会社プレゼンス・メディカルではAIを活用したコミュニケーション支援サービスとして、以下の3つのサービスを提供しています。
項目 |
概要 |
コミュニケーションアシスト |
l AIが会話内容を解析し、適切な返答を自動生成してコミュニケーションをサポートする l 個人の嗜好プロファイルを基に、楽しめるコンテンツをAIが提供する l 会話できるAIロボットが利用者の話し相手となり、心地よい交流を実現する |
わかいやすい情報提示 |
l AIが文章を自動要約し、分かりやすく表示するインターフェースを提供する l 画像やイラストを使った視覚支援コンテンツを自動生成する l 音声読み上げとテキスト化で情報取得の選択肢を拡大する |
記憶補助 |
l AIが会話記録をテキストと音声情報で保存する l 重要な伝達事項は独自のUIで明確にわかりやすく表示する l 日常のスケジュールやToDoを音声入力と共に記録する |
このサービスは介護の現場で働く人とAIが、利用者とのコミュニケーションにおいて理想的な分業ができることを目指しているのが特徴的だと言えるでしょう。
興味のある方は、次のページもごらんください。
SITUATION 003 | Presence Innovation Lab.|プレゼンスイノベーションラボ (presence-m.com)
まとめ
感情認識AIは、介護の現場で働く人々にとって、これからの経営やケアの質を向上させるための強力なツールです。表情や声のトーン、体温などから感情を解析し、利用者の心の状態を理解することで、ハラスメントの予防や適切なケアの提供に繋がります。また、人手不足が懸念される介護業界において、AIを活用することで効率的な業務運営が期待され、働く人たちの負担を軽減する可能性も広がります。さらに、DXの進展によりAI技術の導入が進めば、介護サービスの質がさらに向上し、より利用者に寄り添ったサポートが実現できるでしょう。
しかし、感情認識AIの導入には注意すべき点もあります。プライバシーの懸念やAIによる誤認識、またAIに依存しすぎて人と人との直接的なコミュニケーションが減る可能性などが挙げられます。そのため、AIと人間がどのように協働していくかを慎重に検討し、自事業所に適した形で導入することが重要です。
これからの介護業界では、感情認識AIの活用がさらなる課題解決への鍵となるでしょう。ぜひ、この記事を参考に、感情認識AIの導入を検討してみてください。
本記事は発表当時のデータに基づき、一般的な意見を提供しております。経営上の具体的な決断は、各々の状況に合わせて深く思案することが求められます。したがって、専門家と話し合いながら適切な決定を下すことを強く推奨します。この記事を基に行った判断により、直接的または間接的な損害が発生した場合でも、我々はその責任を負いかねます。