介護における生産性向上とは?目的から事例まで詳しく解説
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要約:
介護における生産性向上とは、単に業務効率を上げることではなく「介護の価値を高めること」です。目的は介護サービスの質の向上と人材の定着・確保です。高齢化の進行や人手不足、DX推進を背景に重要性が増しています。具体的な取り組みには5Sの徹底、業務の明確化、ICT活用、OJT制度の整備などがあり、好事例では職員の自発的な改善行動が促されました。現場に合わせて段階的に取り組むことが成功のカギです。
介護における生産性向上とは?
厚生労働省が運営する「介護分野における生産性向上ポータルサイト」では、介護における生産性向上と一般的な生産性向上では次のような違いがあるとしています。
項目 |
定義 |
介護における生産性向上 |
介護の価値を高めること |
一般的な生産性向上 |
企業で働く従業員やその労働時間数あたりの付加価値額を、設備投資や業務効率化などで向上させること |
介護における生産性向上に取り組むためには、まず上記2つの定義の違いをしっかり理解することが大切です。
参考:厚生労働省「介護分野における生産性向上ポータルサイト」
介護における生産性向上の目的
「介護分野における生産性向上ポータルサイト」では、介護分野で生産性向上に取り組む目的を以下の2つだとしています。
- 介護サービスの質を向上させること
- 介護の現場で働く人材の定着・確保
介護事業所において介護サービスの質が向上すれば、そのサービスを受けたい利用者が増加するため集客しやすくなり、収入も増加するでしょう。
一方介護事業所において必要な人材を確保し、定着させることができればサービスの質を維持でき、採用コストを下げられます。
これらのことから、上記の2つの目的を達成することは介護事業所にとってメリットが大きいと言えるでしょう。
参考:厚生労働省「介護分野における生産性向上ポータルサイト」
介護分野における生産性向上が注目される背景
介護分野における生産性向上が注目される背景には、どのようなことがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
日本は高齢化率が高い国であるため

画像出典:内閣府「令和6年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)」
2024年に内閣府が公表した「令和6年版高齢社会白書」において、世界の各年代別高齢者の割合とその推移について調べたところ、上記のような結果となりました。
欧米では調査開始した1950年から高齢者の割合がゆるやかに増加し続け、現状その割合が最も大きいのはドイツで、22.0%を占めています。
一方アジアでは調査開始した1950年から2000年くらいまでは高齢者の割合が横這いを続けていましたが、2010年ごろから急激に増加し、現状その割合が最も大きいのは日本で28.6%を占めているのです。
これらのことから日本は世界で最も高齢化率が高い国だとわかります。
高齢化率が増加し介護へのニーズが高まるほど、現場での生産性向上への取り組みにも注目が集まるでしょう。
参考:内閣府「令和6年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)」
離職率が高いため

画像出典:公益財団法人介護労働安定センター 介護労働実態調査「事業所における介護労働実態調査 結果報告書」
2023年に公益財団法人介護労働安定センターが行った介護労働実態調査において、7,266の事業所を対象に訪問介護員・介護職員の離職率について調べたところ、13.1%という結果でした。
一方8,990の介護事業所を対象に訪問介護員・介護職員の離職率動向について調べたところ、上記のような結果が出ました。
離職率について「ほぼ変化はない」と回答した事業所が40.6%で最も多く、ついで「低下傾向にある」と回答した事業所が18.1%を占めるという結果となりました。
このことから、介護業界の離職率がなかなかうまく下がらないため、現場では生産性向上に取り組まなければならない現状がうかがえます。
介護の現場におけるDXが推進されているため
団塊ジュニア世代が65才以上となり高齢化人口がピークを迎える2040年ごろになると、要介護認定率が高く医療・介護の複合ニーズを持つ人が多い85歳以上の人口も増加します。
また2025年現在すでに減少している生産年齢人口がさらに減少し、介護業界も含めて人材不足となるのが予想されているのです。
このような状況内では、限りある資源を有効活用し質の高い効率的な介護サービスの提供が求められるため、介護業界や地方自治体におけるDXを進め、業務を効率化する必要が出てくるでしょう。
2024年に国では介護DXの先行実施事業として、介護保険被保険者証のペーパーレス化を踏まえ、介護サービス利用時におけるマイナンバーカードを活用した被保険者証などの情報確認について、市町村、介護事業所などにおける業務フローを実証開始しています。
介護事業所における生産性向上のための取り組み
厚生労働省が運営する「介護分野における生産性向上ポータルサイト」では、介護サービスにおける生産性向上の取り組みを以下の7つに分類しています。
職場環境の整備
安心・安全な環境で介護サービスを提供するのを目的として職場環境の整備を行うことは、介護サービスにおける生産性向上の取り組みの1つです。
この取り組みによって得られる効果は次の2つです。
- 5Sの視点での安全な介護環境と働きやすい職場づくりができる
- 必要なものをすぐに取り出すことができ、常に作業に取り掛かることができる状態を維持できる
5Sとは次の5つの視点のことを指します。
項目 |
概要 |
整理 |
l 必要なものと不要なものをわけて不要なものを捨てる |
整頓 |
l 三定(定置・定品・定量) l 手元化(探す手間を省く) |
清掃 |
l 動線上をきれいに維持する l 物品がすぐに使えるよう点検をおこたらない |
清潔 |
l 整理・整頓・清掃(3S)を維持する l 清潔と不潔を分ける |
躾 |
l 決められたことを守る、習慣づける |
5Sの視点から現在の職場環境をチェックすると、働く人も利用者の皆さんも心地よく過ごせる空間を維持できるでしょう。
取り組みの手順は以下の通りです。
- 5Sの考え方や意味を理解する
- 要改善項目を洗い出しリスト化する
- 担当者、期日、何をするかを決める
- 3.の内容に従いものの廃棄、配置、整理をする
まずは5Sの視点を介護職員全員が持つことから始めてみましょう。
業務の明確化と役割分担
業務を明確化し役割分担を見直すことも介護における生産性向上につながります。
この取り組みによって得られる効果は、3M(ムリ・ムダ・ムラ)を削減してマスターラインを再構築できることです。
マスターラインとは業務時間の区切りやタイムリミットを表します。
取り組みの手順は次の通りです。
- 業務を見える化する
- 見える化した業務の中から3Mを見つける
- 3Mを取り除く
- 役割分担をし直し新たなマスターラインを引く
- 手順と役割を見直す
必要な業務が精査され期限がはっきり決まるため、時間内に仕事を終えられるようになるでしょう。
手順書の作成
「手順書は熟練度を上げるためのトレーニングツール」と位置づけ、内容を一目でわかるものとすることも介護における生産性向上をもたらします。
この取り組みによって得られる効果は以下の2つです。
- 介護職員の経験値、知識を可視化し、サービスレベルを底上げできる
- 介護職員全体の熟練度を向上させられる
手順書を理解しやすいものとし記載された内容を介護職員が全員実践できるようになれば、その事業所の生産性が向上するだけではなく、介護サービスの質の向上にもつながるでしょう。
取り組みの手順は次の通りです。
- 現在の業務の手順や方法を見える化する
- 3Mを見つける
- 業務においてやること、やらないこと、やってはいけないことを明確化しやることの手順を決める
- フロー図を活用し理解しやすい手順書を作る
フロー図には画像や絵なども添え、一目で理解できるよう工夫しましょう。
記録・報告様式の工夫
介護記録など、各報告書のテンプレートの見直しをすることも生産性向上につながります。
この取り組みによって得られる効果は次の2つです。
- 情報の読み解きが簡単に行えるテンプレートを作れる
- 文書を作成する本来の目的に気づける
テンプレートは情報共有をしやすくするだけではなく介護職員のモチベーションが上がるよう、目標に対する達成度などを項目として新しく取り入れてもよいでしょう。
取り組みの手順は以下の通りです。
- テンプレートそのものや項目の必要性を見直す
- 新しいテンプレートを作成する
- 記入のルールを決める
- 新しいテンプレートを1週間程度運用して評価し、改善する
事業所の現状に合わせて、定期的にテンプレートの見直しをするのもおすすめです。
情報共有の工夫
情報共有の工夫として、情報収集と情報共有のルールを決めICT機器を積極的に取り入れるのも介護の現場における生産性向上につながります。
ICT機器の中では、PC、タブレット端末、スマートフォン、インカム(トランシーバー)などの活用が効果的です。
この取り組みによって得られる効果は次の3つです。
- 情報の転記作業の削減
- 一斉同時配信による報告や申し送りの効率化
- 情報共有のタイムラグの解消
データ入力で情報共有をする際は、「入力を定型化する」「チェックボックス式とする」「音声入力する」といった工夫をするとより作業を効率化できるでしょう。
取り組みの手順は次の通りです。
- 共有する情報を整理する
- 情報を使う目的を明確化する
- 情報収集のルールを決める
- 情報共有のルールを決める
必要な情報だけを整理して効率良く共有できる体制が整えば、生産性が向上するだけではなくより介護職員が利用者の皆さんへの身体介護やコミュニケーションに時間を割けるようになるのではないでしょうか
OJTの仕組みづくり
介護の現場における人材育成ではOJT(実務を通じて知識やスキルを習得してもらう研修手法)が用いられることが多いのですが、OJTの仕組みづくりも生産性向上につながります。
この取り組みによって得られる効果は以下の通りです。
- 教育内容を統一できる
- 教え方のトレーニングを実施できる
- 教える仕組みを作れる
- 一定の教育スキルを持つリーダーを育成できる
教える人によって内容が異なったり、手順が違ったりすることのないよう配慮するのが重要です。
取り組みの手順は次の通りです。
- 目標、教える内容、手順を明確化する
- 定期的に介護職員を評価する仕組みを設ける
- OJTをする介護職員に教える技術を身に着けてもらう
OJTを仕組み化することで、生産性が向上するだけではなく利用者の皆さんに対するケアの質を一定に保つことができるでしょう。
理念・行動指針の徹底
介護職員に事業所の理念や行動指針を理解してもらうことも、現場での生産性向上につながります。
介護職員全員が事業所の理念や行動指針を理解していれば、業務の中で判断に迷うことが発生しても理念や行動指針に基づき、自分で判断して適切な行動ができるでしょう。
この取り組みによって得られる効果は、事業所の理念や行動指針に基づき自律的な判断や行動ができる介護職員を育成できることです。
取り組みの手順は次の通りです。
- 事業所の理念や行動指針が介護職員に浸透しているかを確認する
- 介護職員に自分の業務が理念や行動指針とどのようにつながっているのかを考えてもらう
- 理念を再確認し浸透させる
理念や行動指針は、カードなどを作成して携帯してもらったり、施設の目につくところに掲示したりと工夫して介護職員に覚えてもらいましょう。
また時代背景や介護業界全体の意識の変化などに応じて、理念や行動指針を定期的に見直すことも重要です。
参考:厚生労働省 介護分野における生産性向上ポータルサイト「業務改善に向けた取組」
介護事業所における生産性向上のための取り組み事例
実際に自分の介護事業所において生産性向上のための取り組みをするにあたって、他の事業所の事例を知っておきたいという人もいるでしょう。
ある特定施設入居者生活介護の事業所における取り組み事例をご紹介します。
特定施設入居者生活介護の事業所では、職場環境の整備ができていないことにより以下のような課題が発生していました。
- 介護職員が多忙で心にゆとりがない
- 利用者の介護サービスの質が向上しない
上記課題の解決のため、事業所では以下のような手順で生産性向上のための取り組みを行います。
- 改善活動の準備として施設長をリーダーとするプロジェクトチームを作り、介護職員に気づきシートを書いてもらう
- 気づきシートを使用し因果関係図を作成する
- 因果関係図から職場環境の整備について自分事としてとらえていない介護職員が多いとわかったため施設内の5Sに取り組むこととする
- 5Sの実行計画を立てる
- 改善活動に取り組む
- 改善活動を振り返る
- 手順書を作成し介護職員自身が日々の小さな改善活動を実行できるようにする
- 朝礼やカンファレンスでの声掛け・注意喚起シールの貼り付けなどを行い習慣化する
因果関係図とは気づきシートから「原因」「課題」「悪影響」を分析し、課題を俯瞰するために作成する図のことです。
これらの改善活動の結果、特定施設入居者生活介護の事業所では指示がないと環境整備ができなかった介護職員が、自発的に環境整備を行うようになったのです。
課題を分析し、適切な解決方法を見つけ出してスモールステップで改善に取り組んだため、介護職員全員に環境整備が浸透した好事例だと言えるでしょう。
参考:厚生労働省 介護分野における生産性向上ポータルサイト「取組事例紹介」
介護における生産性向上に取り組みたい方は株式会社プレゼンス・メディカルにご相談ください
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具体的には以下のようなサービスをご提案しています。
- 事務仕事・帳票簡素化型サービス
- ケアプラン作成型サービス
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業務フローの分析から改善策のご提案まで行えるため、現場を疲弊させることなく生産性向上が実現できるのです。
興味のある方は、次のページもごらんください。
FUNCTIONS&PRODUCT | 喀痰吸引等研修の講習・資格・介護・福祉の研修実績|株式会社プレゼンス・メディカル
まとめ
介護における生産性向上とは介護の価値を高めることであり、その目的は介護サービスの質を向上させること、介護の現場で働く人材の定着・確保の2つです。日本における高齢化率の増加、介護業界における離職率の高さ、介護の現場におけるDX推進などを背景に、今後もますます生産性向上に取り組む介護事業所は増加していくでしょう。
介護現場における生産性向上とは、「介護の価値を高めること」であり、サービスの質を上げ、働く人材を確保・定着させることが目的です。高齢化率の上昇、離職率の高さ、介護DXの推進といった社会的背景を受け、今後ますます必要とされる考え方です。取り組みとしては、5Sを活用した職場環境の整備、業務の明確化、ICTによる情報共有の効率化、手順書整備、OJTの仕組みづくりなどが挙げられます。好事例では、職員の意識改革と行動の変化が生まれ、生産性とケアの質が向上しました。これらは段階的かつ現場に合った形で進めることで、負担を最小限にしながら成果が期待できます。株式会社プレゼンス・メディカルでは、AIを活用した現場支援を通じて、より実効性のある生産性向上をサポートしています。
本記事は発表当時のデータに基づき、一般的な意見を提供しております。経営上の具体的な決断は、各々の状況に合わせて深く思案することが求められます。したがって、専門家と話し合いながら適切な決定を下すことを強く推奨します。この記事を基に行った判断により、直接的または間接的な損害が発生した場合でも、我々はその責任を負いかねます。