ホスピス型有料老人ホームとは?経営するメリット
目次 [閉じる]
要約:
ホスピス型有料老人ホームは、医療・介護サービスをいつでも受けられる施設で、末期がんや難病患者など、治療目的ではなく快適な生活を望む人が対象です。この形態は市場が急成長しており、集客しやすく、収益性が高い点が特徴です。また、質の高いケアを提供できるため優秀な人材が集まりやすい一方で、施設開設時には入居者確保や求人に十分な準備が必要です。不正請求が問題視される中、健全な運営が求められています。経営には地域ニーズの理解と適切な準備が重要です。
有料老人ホームの経営を考えているので調べてみると、ホスピス型有料老人ホームへのニーズが高いとわかったもののなぜそんなに人気なのかわからないという人はいませんか?
この記事では、ホスピス型有料老人ホームとは何かから経営するメリットまで詳しく解説します。
ホスピス型有料老人ホームとは?
ホスピス型有料老人ホームとは、ホスピス型住宅の1つで医療サービスや介護サービスがいつでも受けられる有料老人ホームのことを指し、法律で公的に制度化された施設の形態ではありません。
訪問看護ステーションや訪問介護ステーションが併設されたり、近隣に設置されたりしており、それぞれが入居者に対し訪問看護サービス・訪問介護サービスを提供します。
また緩和ケア病棟と異なり病院ではないので、家族との面談や外泊が比較的しやすいのも特徴的です。
具体的には以下のような、回復の見込みがあまりない病気の人が入居することが多いでしょう。
- 末期がん
- 進行性筋ジストロフィー症
- 筋委縮性側索硬化症(ALS)
- 後天性免疫不全症候群
- 人工呼吸器を使用している状態
- パーキンソン病
日常生活をする上で医療サービスへの依存度が高い上記のような病気で、治療目的の積極的な医療サービスを望まない人にホスピス型有料老人ホームでの生活が合っていると言えます。
ホスピス型有料老人ホームが注目される背景
ホスピス型有料老人ホームが注目される背景には、どのようなことがあるのでしょうか。
前の項目でホスピス型有料老人ホームへ入居するのは末期がんの患者が多いとお伝えしましたが、2024年8月に国立研究開発法人国立がん研究センターが運営する「最新がん統計」において、以下のことが公表されました。
- 2020年に新たに診断されたがんは945,055例(男性534,814例、女性410,238例)
- 2020年のデータに基づくと日本人が一生のうちにがんと診断される確率は男性1%、女性48.9%
- 2022年のデータに基づくと日本人ががんで死亡する確率は男性1%、女性17.5%
日本人は男女関係なくほぼ半数ががんと診断されるため、その人たちが適切な医療サービスや介護サービスを受けながら生活ができるホスピス型有料老人ホームへのニーズは高いと言えます。
また同じ末期がん患者でも積極的な治療を望む人もいればそうではない人もいるため、積極的な治療を望まない人にとってホスピス型有料老人ホームは付加価値の高い生活の場と言えるでしょう。
これらのことから、ホスピス型有料老人ホームは回復の見込みがあまりない病気の人の最期の生活の場として注目を集めているのです。
参考:がん統計「最新がん統計」
ホスピス型有料老人ホームを経営するメリット
ホスピス型有料老人ホームを経営するメリットには、どのようなことがあるのでしょうか。
4つご紹介します。
急激に市場規模が拡大しているので集客しやすい

画像出典:タムラプランニング&オペレーティング 高齢者住宅レポート「第16回 田村明孝の辛口コラム~緩和ケア(ホスピス)ホームの急増の背景」
2024年6月にタムラプランニング&オペレーティングが発表した高齢者住宅レポート内で、主な緩和ケアホーム(ホスピスホーム)の供給戸数が公開されました。
調査開始の2017年には1つの企業で500戸以下しか供給されなかった緩和ケアホーム(ホスピスホーム)が2024年では1つの企業で1400戸以上供給され、急激に市場規模が拡大しているのがわかります。
タムラプランニング&オペレーティングでは、この供給戸数の増加の理由を次のように分析しています。
- サービス付き高齢者向け住宅は居室が25m2以上必要だが、有料老人ホームは13m2で済むのでコストをおさえられる
- 特定施設(介護保険法の基準を満たした施設)ではないため総量規制の対象とならず地域で施設を開設しやすい
- 居宅サービスの組み合わせ方次第で介護報酬収益が上げやすくなる
ホスピス型有料老人ホームへの需要が急拡大しているため、各企業もそれに応えなければならないことと、上記の理由から急激に供給戸数を増やしたと言えるでしょう。
このようにホスピス型有料老人ホームの市場規模は急成長しているので、このタイミングで経営を始めるのはメリットが大きいと言えます。
参考:タムラプランニング&オペレーティング 高齢者住宅レポート「第16回 田村明孝の辛口コラム~緩和ケア(ホスピス)ホームの急増の背景」
人生の最期の迎え方へのニーズに合っているので集客しやすい

画像出典:厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査 報告書」
2022年に厚生労働省が行った「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」において、病気で治る見込みがなく、およそ1年以内に死に至る場合最期は医療機関か介護施設で迎えたいと回答をした人は一般国民1,548人、医師576人、看護師928人、介護支援専門員692人でした。
この人たちを対象に、自宅以外で最期を迎えたい理由をたずねたところ、上記の表のような結果だったのです。
理由として多かったのが「介護してくれる家族等に負担がかかるから」で70%を超えており、介護サービスや医療サービスが整っているとは言えない自宅で最期を迎えると、家族への負荷がかかりすぎると感じているのがわかります。
また自宅での体調の急変時の対応にも、多くの回答者が不安を抱えているのがわかる結果となりました。
人生の最期は家族に負担をかけずに迎えたい、急変時にも落ち着いて対応してほしいという思いをかなえることができるのがホスピス型有料老人ホームであるため、経営のやり方次第でお客様満足度の高いサービスを提供できるのがメリットだと言えるでしょう。
参考:厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」
収益性が高い

画像出典:日本経済新聞「急増するホスピス型住宅 家族と過ごす時間も」
ホスピス型有料老人ホームを含むホスピス型住宅は、収益性が高いのが経営上のメリットだと言えます。
ホスピス型住宅の収益構造は、以下の要素で構成されています。
- 住宅にかかる費用などの入居者の自己負担
- 介護保険収入
- 医療保険収入
- 障がい福祉サービスからの収入
上記のイメージ図のように医療保険収入が売上の約60%程度を占めるため、有料老人ホームと比較すると収益性が良くなっているのです。
医療サービスでは介護保険サービスの訪問看護が優先的に給付されることになっていますが、下記の疾病を持つ人は医療保険が適用されることとなっています。
- 末期がん
- 多発性硬化症
- 重症筋無力症
- スモン
- 筋委縮性側索硬化症
- 脊髄小脳変性症
- ハンチントン病
- 進行性筋ジストロフィー症
- パーキンソン病関連疾患
- 多系統萎縮症
- プリオン病
- 亜急性硬化症全脳炎
- ライソゾーム病
- 副腎白質ジストロフィー
- 脊髄性筋萎縮症
- 球脊髄性筋委縮症
- 慢性炎症性脱髄性神経炎
- 後天性免疫不全症候群
- 頚髄損傷
- 人工呼吸器を使用している状態
上記はほとんど指定難病または難病として研究が行われている疾病です。
ホスピス型住宅ではこれらの疾病を持つ患者を入居者として受け入れているため、医療保険が適用され収益性が良くなるというわけです。
入居者が満足するだけではなく、そこで働く人たちも納得のいく収入を得られる形で経営をしたい人にとって、ホスピス型住宅はメリットの多い形態だと言えるでしょう。
参考:株式会社都市未来総合研究所「増加しつつあるホスピス住宅」
参考:難病情報センター
質の高いケアを提供できるため良い人材が集まりやすい
ホスピス型有料老人ホームを運営するにあたって中心となるのは訪問看護を担当する看護師です。
入居者の医療サービスへのニーズが高いことから、看護師が中心となり介護士やリハビリテーションのスタッフと連携してチームケアを行うためです。
大きな病院などでは医師のサポートや日々のルーティンに忙殺されて一人の患者にじっくりと向き合って看護をするのは難しいですが、ホスピス型有料老人ホームでは終末期にある入居者を看取るまで、丁寧なケアを行うことができます。
そのため患者さんに寄り添った質の良いケアをしたいという、高い目標やスキルを持った看護師が集まりやすくなるでしょう。
知識や経験の豊富なスタッフが集まることでホスピス型有料老人ホーム全体のケアの質が高まるため、競合他社と差別化した付加価値の高いサービスが提供できるようになります。
ホスピス型有料老人ホームの競合状況
ホスピス型有料老人ホームの地域での競合状況はどのようなものなのでしょうか。
2024年11月現在、主なホスピス型有料老人ホームの運営会社が東京都、神奈川県、札幌、大阪府、京都府の5つの地域で何件くらい施設を開設しているのかをご紹介します。
|
東京都 |
神奈川県 |
札幌 |
大阪府 |
京都府 |
16件 |
16件 |
2件 |
1件 |
0件 |
|
7件 |
4件 |
4件 |
6件 |
1件 |
|
0件 |
1件 |
0件 |
0件 |
2件 |
|
14件 |
13件 |
3件 |
2件 |
1件 |
|
1件 |
0件 |
0件 |
0件 |
0件 |
|
3件 |
7件 |
3件 |
4件 |
1件 |
|
0件 |
0件 |
0件 |
0件 |
3件 |
|
8件 |
10件 |
0件 |
0件 |
0件 |
上記の中で株式会社スタッフシュウエイは愛知県と静岡県、株式会社IWASAKIは、株式会社夢眠ホームは愛知県にそれぞれ施設の件数が多くなっています。
ホスピス型有料老人ホームを開設する場所を決める際は、地域でどのくらいの数の競合があるのかを調べ利益が出せるかどうか考えてみることが大切です。
ホスピス型有料老人ホームを開設する前の準備
ホスピス型有料老人ホームを開設する前には、どのような事前準備をすればよいのでしょうか。
2つご紹介します。
入居者の確保
ホスピス型有料老人ホームに入居するのは末期がんの患者や難病の患者となるため、他の高齢者施設と比較すると利用期間が短くなるのが特徴的です。
このことから、稼働率を安定させるためには継続的に入居者を確保する必要があると言えるでしょう。
そのため、例えば新規開設のタイミングより早めに地域の医療機関、行政などと関係深化しておき安定的に入居者を確保できる体制を整えるのが望ましい形です。
ホスピス型有料老人ホーム自体がまだ新しく、医療関係者の間でも認知度が高いとは言えないサービスのため、体制やサービス内容を丁寧に説明し理解を得ることが大切です。
求人
前の項目でもご紹介した通り、ホスピス型有料老人ホームでは質の高いケアを提供できるため、求人をかけると良い人材が集まりやすいと言えます。
しかし地域の競合他社と差別化するためには、看護師や介護士の中でもホスピス型有料老人ホームに役立つ知識や経験をもつ人をできるだけ採用するのが望ましいでしょう。
看護師の中には、「がん看護」「老人看護」など14の専門看護分野のプロとして公益社団法人日本看護協会から認定された「専門看護師」という資格を持つ人がいますが、このような人材を採用できればホスピス型有料老人ホームの緩和ケアやターミナルケアの質はさらに高められます。
また看取り介護の専門家である「終末期ケア専門士」の有資格者なども採用すると、介護サービスの質の向上が見込めます。
求人に少し時間をかけても、良いケアを実現できる人材を確保することが大切です。
参考:株式会社都市未来総合研究所「増加しつつあるホスピス住宅」
ホスピス型有料老人ホームを経営する上での注意点
2024年8月23日のYahoo!ニュースで、ホスピス型の有料老人ホームや精神障害者を対象とした訪問看護において、運営事業者による不正、過剰とみられる診療報酬の請求が明らかになったことが報じられました。
介護・福祉を専門にした経営コンサルタントが関わり、以下のような手口で診療報酬を過剰請求していたのです。
- 訪問看護サービスの回数を増やして診療報酬を得る
- 複数人で訪問看護サービスを行い加算報酬を得る
- 深夜に訪問看護サービスを行い加算報酬を得る
- 医師に特別指示書の発行を依頼し訪問看護サービスの回数を増やす
このような行為は、不要なケアを診療報酬を得るのを目的として行うものであり、患者のQOL(生活の質)を上げることにはつながりません。
近年Web広告やSNSなどで、福祉の業界に参入すれば多額のお金が儲かるかのように宣伝をするコンサルティングサービスやフランチャイズが多くなってきています。
福祉の業界においても黒字を目指して健全な経営をするのは大切なことですが、法律に違反して不正にお金を稼ぐのは望ましくありません。
多額の利益を上げることだけを目的として、このようなコンサルティングサービスやフランチャイズの言うことをうのみにしてしまわないよう十分な注意が必要です。
参考:Yahoo!ニュース「『難病の客からは1人90万円を』過剰な訪問看護、背後にいた人物とは 福祉ビジネス、違法な助言をするコンサルも」
ホスピス型有料老人ホームの運営をサポートします
株式会社プレゼンス・メディカルではホスピス型有料老人ホームの運営をサポートしています。
例えばホスピス型有料老人ホームでは医療スタッフと介護スタッフの連携が重要ですが、株式会社プレゼンス・メディカルではAI導入による施設内での医療ニーズへの対応力の強化をご提案しているのです。
具体的には以下のような仕事にAIを用いることで、医療スタッフと介護スタッフが連携しやすくします。
- 入居者のADL(日常生活動作)やバイタルサインの解析をして健康リスクを予測する
- 画像解析による褥瘡や傷の自動検出で重症化を予防する
- 医療機関との DOCUMENT 連携における情報整理と自然言語要約による情報共有の効率化
- 入居者のカルテと処方薬データの解析結果に基づき薬剤師が投薬チェックを行う
- 介護記録や医療データに基づき施設内の医療・介護のリソースを最適化して配置する
ホスピス型有料老人ホームの経営にAIを用いて、開設後に効率的な運営を目指したいという方は次のページもごらんください。
FUNCTIONS&PRODUCT | 喀痰吸引等研修の講習・資格・介護・福祉の研修実績|株式会社プレゼンス・メディカル
まとめ
ホスピス型有料老人ホームは、末期がんや難病患者など、医療依存度が高く、積極的な治療を望まない人々の最期の生活の場として注目されています。この施設形態は、医療・介護サービスをいつでも提供できる利便性や家族への負担軽減を実現する一方で、病院とは異なり自由度の高い環境を提供します。市場は急成長しており、収益性の高さやニーズの増加により、経営参入のメリットが大きい点が特徴です。さらに、終末期ケアに特化した質の高いサービスを提供できるため、優秀な医療・介護スタッフが集まりやすい環境を作れる点も魅力です。
しかし、経営には注意が必要です。特に、入居者確保や求人時の人材選定、地域の競合状況の調査が不可欠です。不正請求問題などを回避し、健全な運営を行うことも求められています。ホスピス型有料老人ホームは適切な準備と運営で、高い付加価値と地域の信頼を得られる施設形態といえるでしょう。
本記事は発表当時のデータに基づき、一般的な意見を提供しております。経営上の具体的な決断は、各々の状況に合わせて深く思案することが求められます。したがって、専門家と話し合いながら適切な決定を下すことを強く推奨します。この記事を基に行った判断により、直接的または間接的な損害が発生した場合でも、我々はその責任を負いかねます。